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[奨励賞] 川崎 健太 / 慶應義塾大学医学部腫瘍センター

Kenta Kawasaki, Ph.D., M.D.

[分野:がん分野]


論文リンク


論文タイトル

FOXA2 promotes metastatic competence in small cell lung cancer


掲載雑誌名

Nature Communications


論文内容

小細胞肺癌(SCLC)は肺癌の一型で転移能が著しく高く予後が悪いことで知られています。この臨床像に基づき、「この腫瘍の転移能は何によるものか?」という疑問に挑みました。そのために、まず327例のSCLC症例のコホートを用いて、その中で長期間転移も再発もしていない患者集団を同定しました。このような患者がいるということは著しい転移能が後天的に獲得されていることを示唆しています。次に、その因子に迫るために転移も再発もしなかった患者の病理サンプルと転移・再発した患者の病理サンプルを用いて遺伝子変異や発現解析を行い、その違いにFOXA2という転写因子を同定しました。この遺伝子の発現が低下することで、マウス体内の転移が有意に減少し、FOXA2の転移への関与が実験的に示されました。パスウェイ解析はFOXA2陽性細胞がFetal signatureという胎児期の発現プログラムを使用していることを突き止めました。更に、FOXA2の上流としてASCL1を示し、ASCL1のFOXA2プロモーターへの結合がFOXA2の発現を制御していることを臨床病理検体のATAC-seq(FFPE-ATAC-seq)を用いて初めて証明しました。従って、本論文ではASCL1-FOXA2 axisのSCLCの転移における重要性を示し、その発見は今後の本分野における転移を標的とした治療開発に貢献することが期待されます。


受賞者のコメント

素晴らしい賞を受賞させていただき誠にありがとうございます。米国での研究環境を活かして転移のメカニズムの一端を明らかにしたいという気持ちが実現でき、その結果に対してこのように高くご評価いただけたこと大変嬉しく思います。


審査員コメント


推名 健太郎先生

SCLC転移のメカニズムを、臨床検体とマウスモデルの両輪でFOXA2/ASCL1軸から解明した点が評価高いです。トランスレーショナルリサーチとして非常に完成度が高く、転移という複雑な現象をクリアに示した素晴らしい仕事だと思います。


小林 祥久先生

予後不良の肺小細胞がんの遠隔転移機構について、従来は原発巣と転移巣の比較研究が多く行われてきました。本研究は、診断時に遠隔転移のあった症例と生涯遠隔転移・再発のなかった稀な症例の遺伝子発現レベルを比較するという斬新な臨床的切り口からアプローチすることで、FOXA2が重要であることを見出された点が素晴らしいです。緻密な細胞実験とマウス実験によって、発がん作用が既知のASCL1がFOXA2のプロモーター領域に直接結合することでfetal neuroendocrine gene expression・転移能を獲得する、という関連も含めて実証されました。予後に直結する遠隔転移にフォーカスした新しい治療開発へと希望が膨らむ研究成果です。


牧野 祐紀先生

小細胞肺癌の転移能を規定する分子機構としてASCL1-FOXA2軸を特定した研究で、小細胞肺癌に対する新規治療開発に繋がり得る結果だと思います。ASCL1がFOXA2の転写を制御していることがきれいに示されています。今後ASCL1-FOXA2軸の意義について、細胞株だけでなく自然発症モデルでの解析が待たれます。


1)研究者を目指したきっかけ

目の前の患者さんに対してガイドラインで定められていることではなくて何か新しい治療を提案できるような未来に貢献したいと思って。


2)現在の専門分野に進んだ理由

末期のがんは現状根治が難しい病気です。その中でも私は最も予後が悪く、短い期間に多発に転移する、神経内分泌癌というがんの一型を専門としています。がんの中でもどうしてこのがんはこんなにも性格が悪いのか?それが基礎研究を通して少しでも明らかになればこの病気の人たちに新たな治療法が提案できると思い、日々研究に取り組んでいます。


3)この研究の将来性

現状無治療では1~3か月程度の神経内分泌癌、この病気のことがより良くわかることで、この病気にかかった後でも長く元気に過ごせるような治療法の開発ができると思います。


留学や研究生活にまつわるエピソード

ボスは自由放任だったので、自分でやりたいことを探して、その解法を考える必要がありました。世界中から集まる仲間たちと休憩時間に議論して、自分の考えをまとめあげていく、その環境と経験はとても貴重でした。

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