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[奨励賞] 早坂 太希 / 旭川医科大学

Taiki Hayasaka, Ph.D.

[分野:INDY Tomorrow (インディアナ)]


論文リンク


論文タイトル

Periostin is a Pivotal Target of microRNA-150-5p in Cardiac Fibroblast Activation and Chronic Myocardial Infarction


掲載雑誌名

JACC: Basic to Translational Science


論文内容

心筋梗塞の後、心臓の組織が硬くなる「線維化」は、心不全の原因のひとつです。この研究では、心臓の線維化において、保護的な役割を持つマイクロRNA「miR-150」と、線維化を促進するタンパク質「ペリオスチン(POSTN)」という2つの分子がどのように関わっているかを解明したものです。

我々はまず、miR-150がPOSTNの働きを直接的に抑制することを示しました 。次に、miR-150のKOマウスでは、心筋梗塞後の心機能が悪化し、線維化がより強く起こることを確認しました。

この研究の最も重要な点は、miR-150とPOSTNの両方をなくしたdouble KO(DKO)マウスを用いた実験です。このマウスでは、心筋梗塞後の心機能の低下や線維化が、miR-150 KOマウスに比べて大幅に改善しました。これは、保護的なmiR-150がなくなることによる悪影響が、主に有害なPOSTNの増加によって引き起こされることを強く示唆しています。

本研究は、心筋梗塞後の線維化において「miR-150/POSTN」という経路が中心的な役割を担うことを初めて直接的に証明したものです。将来的に、miR-150を増やす、あるいはPOSTNを減らすといったアプローチが、心不全の新たな治療標的となる可能性を示しています。


受賞者のコメント

この度は伝統あるUJA論文賞をいただき、大変光栄です。本研究は、私が米国インディアナ大学留学中に、恩師であるIl-man Kim教授や同僚たちと共に心血を注いだ成果です。心筋梗塞後の心不全という循環器内科医として身近な困りごとに対して、分子レベルでの新たな防御メカニズムを提示できたことが嬉しいです。現在は旭川医科大学に戻っておりますが、この受賞を糧に、地域の患者さんへ還元できる臨床研究と診療により一層邁進したいと思います。


審査員コメント


辻 正樹先生

miR-150が心筋線維化促進因子であるperiostinを直接制御し、心筋梗塞後の線維化、心機能低下、リモデリングを抑制することを、ヒト心臓線維芽細胞および独自のダブルノックアウトマウスを用いて包括的に示した研究である。分子レベルの機序解析からin vivo機能解析まで一貫性のある実験デザインで、miR-150/POSTN軸を新たな治療標的として提示した点は、トランスレーショナル研究として意義がある。


神津 英至先生

miR-150とPeriostinの機能的連関について、ダブルノックアウトマウスを用いたレスキュー実験により因果関係を明確に実証しており、分子生物学的アプローチとして説得力が高いです。また、カルベジロールの抗線維化作用に関する分子基盤を提示した点は、既存薬の再評価という観点からも大変興味深い結果です。線維化制御という普遍的な課題に対する新規治療法の可能性を提示した優れた研究成果と評価します。


継 敏光先生

本研究は、心筋梗塞後の心臓リモデリングおよび線維化における microRNA-150-5p(miR-150)とPeriostinとの直接的な機能的関係を明確に示した、基礎からトランスレーショナル研究までを網羅する包括的な研究である。miR-150補充療法やPeriostin阻害を目的とした核酸医薬・抗体医薬の開発やmiR-150やPeriostinを用いた予後予測・治療反応性バイオマーカーとしての応用が期待される、臨床的意義の高い論文である。


林 秀憲先生

本研究は、心筋梗塞や心不全で増える periostin (POSTN)と、心臓を守る働きをもつ miR-150が実際にどのようにつながって心臓の状態を左右しているのかを、わかりやすく示した点が優れている。ヒトの心臓線維芽細胞を使った実験や、遺伝子を組み合わせて欠失させた動物モデルを用いることで、miR-150が失われて心臓の機能が悪くなっても、periostinを取り除くとその悪化が改善することを明確に示しており、専門的な知識がなくても病態の流れを理解しやすい。また、実験の進め方は一つ一つ丁寧で筋が通っており、結果もよくそろっているため、完成度の高い研究であると評価できる。


黒沼 圭一郎先生

申請者らは、microRNA-150-5pがperiostin(POSTN)を抑制することで心筋線維化と心リモデリングを制御する分子機序を、多角的な実験手法により明確に示した。本研究は、心不全や虚血性心疾患における線維化制御という重要課題に対し、新たな治療標的を提示するものであり、今後の臨床応用への発展が期待される。


1)研究者を目指したきっかけ

当初は地域医療への貢献を目指して医学の道を選びましたが、ちょうど私が研修医になったときに心不全治療薬の目覚ましい進歩・開発があり、治療がラジカルに変化しました。疾患生理学の探求や創薬が社会に与える重要性に気づき、これを契機に、臨床と基礎研究の両方に携わる道を選択しました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

心臓は一日に約10万回もの拍動を、休むことなく健気に続けています。私たちが走ればさらに速く、強く打ち、全身に血を送り出して応えてくれます。生命に直結する臓器でありながら、最もひたむきに頑張り続けるのが心臓です。

しかし、ダメージを受けた心臓がとうとう音を上げると『心不全』という状態になり、息切れなどの症状で普通の生活を送ることさえ難しくなります。あらゆる心臓病が最後にたどり着くこの状態では、心臓が硬くなる『線維化』が起こります。

この線維化を食い止め、心臓の頑張りを支える治療法を見つけることは、日々患者さんと向き合う循環器内科医の悲願です。


3)この研究の将来性

この研究が進むことで、心筋梗塞を起こした後に「誰の心臓が悪くなりやすいか」を予測する診断指標(バイオメーカー)として役立つ可能性があります。また、研究で明らかにした分子の鍵を操作することで、心臓病の悪化・心不全進展を抑える新しい薬の開発にも繋がります。将来的に、心臓病になっても健康な時と変わらない生活を送り、元気にリハビリや仕事に取り組めるような社会を作る一助になることを目指しています。


留学中のサポートやコミュニティについて

Indy Tomorrowでは同じ大学に留学している日本人研究者と広くつながることができ、研究・私生活両面からとても支えてもらいました。また、日本語を学ぶ大学生との語学交換プログラムにも参加させてもらい、日本人以外、研究者以外の友人ができたこともアメリカでの留学生活を彩りよくしてくれたと思っています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

もともとマウスの心筋梗塞をつくる手技を日本でしていたのですが、アメリカに渡って、器具や麻酔方法などが変化したせいか、手技が安定するまで大分苦労しました。一方で研究室外での友人とのアクティビティやブルワリー巡り、旅行など存分にアメリカ生活を満喫しました。

私はこの研究留学の直後、今度は妻が留学することになり、その土地で第一子を授かりました。主夫としての1年を過ごしましたが、それも貴重な経験だったと同時に、自分の研究留学を支えてくれていた妻にとても感謝を感じえませんでした。留学は家族もワンチームで苦労を分かち合い、楽しめるとより充実すると思います。

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