[奨励賞] 東垂水 直樹 / Nanyang Technological University, Singapore
- UJA Award
- 3 日前
- 読了時間: 5分
Naoki Higashitarumizu, Ph.D.
[分野:化学・工学・物理・数学分野]
論文リンク
論文タイトル
Meter-scale van der Waals films manufactured via one-step roll printing
掲載雑誌名
Science Advances
論文内容
中赤外光(波長3–8 µm)の活用は、ガスセンシングやサーマルイメージングなどに応用が可能であり、防災・セキュリティ、バイオ、自動車などの分野で需要が高まっています。マッチの発火材に含まれる赤リンの仲間である「黒リン」は、二次元層状材料のひとつであり、中赤外波長において優れた発光・受光性能をもちます。しかしながら、これまで多くの研究はグラフェンのようにスコッチテープなどを用いた機会的剥離によって作製するマイクロスケールのデバイス実証にとどまっていました。高強度の発光素子やイメージセンサといった応用に向けては、黒リン薄膜の大面積化がボトルネックとなっています。
本研究では、潤滑油を用いたロールプリント法による大面積薄膜の作製手法を開発しました。このプロセスでは、大きな黒リン単結晶をローリングによって剥離しながら基板上に転写する動作を繰り返すことで均一でピンホールフリーなウェハスケールの薄膜を室温で形成することが可能です。作製した大面積薄膜を使って発光素子を実証し、アプリケーション例としてマルチガスセンサのデモンストレーションを行いました。本成果は基礎研究にとどまっていた黒リン発光デバイスの研究を実デバイス応用に繋げる研究と言えます。
受賞者のコメント
この度は、奨励賞をいただき、大変光栄に思います。
審査員コメント
トープラサートポン カシディット先生
本論文は二次元材料の剥離手法の中でも、二次元材料および基板の種類に関係なく制御よく剥離できる手法を確立し、さらにガスセンサーや光センサーの応用まで実証する大変素晴らしい論文です。この手法により科学・工学的な分野において材料物性の研究やデバイス創出にもつながり、他分野にわたり貢献度の高い成果といえます。今後も更なる研究成果を期待しています。
庄司 観先生
ファンデルワールス粉末のロール印刷技術を開発している論文で、ウェアラブルデバイスの低コスト化に向けた有用な技術を報告している。非常に巨大なメートルスケールの印刷物の作製にも成功しており、実用化に向けた価値の高い論文である。これから、この技術を使った価値のあるウェアラバウルデバイスが開発されることを期待しています。
佐藤 隆昭先生
本研究は、ナノスケールの厚みを持つ2D材料(van der Waals材料)を、一挙にメーター単位の大面積で成膜するという、これまでの常識を覆す革新的なプロセスを提案しています。
まず高く評価したいのは、その「スケーラビリティ」と「圧倒的な汎用性」です。単一の材料に留まらず、多種多様な2D材料パウダーを用いた「ライブラリ化」に成功しており、これがラボレベルの発見ではなく、産業レベルでの実装を明確に見据えたプラットフォーム技術であることを証明しています。剛直なウエハから柔軟なフレキシブル基板まで対応可能な点は、次世代の光・電子デバイス製造におけるブレークスルーとなるでしょう。
現在はLEDや光検出器としての動作実証がなされていますが、今後はこの手法ならではの特性(大面積で、しかも低温プロセス)を活かし、既存の蒸着法やCVD法では到達できなかった「極めて高いパフォーマンスや新機能を持つデバイス」へと発展していくことを期待しています。
また、学術的な観点において、本手法は非常に興味深い可能性を秘めています。審査員として特に注目したのは、本プロセスがトライボロジー(摩擦・摩耗)の分野で古くから知られる「トライボフィルム(tribofilm)」の形成プロセス、すなわちメカノケミストリー(mechanochemistry)と深い親和性を持っている点です。 潤滑油の添加物が摺動によって表面に堆積し、堆積と摩耗の動的なバランスによって性能が決まるのと同様に、本手法における「ロールによる転写・堆積メカニズム」を、界面での化学と力学とをさらに深く関係づけて考察していくことで、極めて高い学術的インパクトを生むのではないかと思っています。
本技術が、エンジニアリングの枠を超えて、新たな物理現象の解明や未知の材料科学を切り拓いていくことを楽しみにしています。今後の研究のさらなる発展を確信しております。
内田 昌樹先生
本論文は、Van der Waals (vdW)層状材料を粉末から直接、ウエハースケール〜メートルスケールの高品質多層膜として形成できる極めて汎用的なロールプリンティング法を確立した点で高く評価される。室温プロセスでコスト効率がよく、また黒リンをはじめとする多様なvdW材料に適用可能で、得られた薄膜は高い発光量子収率と良好な均一性を示す。さらに、ガスセンシングや赤外LEDといったデバイス応用まで実証しており、デバイス製造技術としての実用可能性を強く示している点が大きなインパクトである。サブミクロン厚膜ではピンホールが顕在化すると報告されており、極薄膜電子デバイスへの適用に向け、成膜条件検討のさらなる進展が期待される。
1)研究者を目指したきっかけ
学士・修士・博士そしてポスドクと素晴らしい指導者と仲間に恵まれました。もっとラクに生きる道もあった気もするのですが、実験がうまくいったときの興奮が忘れられず研究を続けてきました。研究の喜びはどんなに小さなことでも現象の第一発見者になれることにあると思います。UC Berkeleyでのポスドクを経て、シンガポールのNTUで研究室を立ち上げました。現在は学生やスタッフと一緒に研究の喜びを分かち合えることにとてもやりがいを感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
新しい材料によってブレークスルーが起きるところ
3)この研究の将来性
赤外光の利用によって見えなかったものが見えるようになる!



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