[奨励賞] 武石 昭一郎 / Albert Einstein College of Medicine
- UJA Award
- 2 日前
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Shoichiro Takeishi, Ph.D., M.D.
[分野:生物学・分子生物学・発生生物学・遺伝学]
論文リンク
論文タイトル
Haematopoietic stem cell number is not solely defined by niche availability
掲載雑誌名
Nature
論文内容
骨髄に存在する造血幹細胞(hematopoietic stem cell; HSC)は、生涯にわたり血液細胞を作り続けるため、その数の制御機構の解明は、基礎研究と臨床医学の双方で重要である。1970年代に、HSCは「ニッチ」と呼ばれる周囲の環境を埋めるまで増えるため、HSC数はニッチ細胞の数で決まるとする説が提唱された。この概念は、骨髄移植前に放射線照射などでレシピエントのHSCを殺傷しないと、移植したHSCが生着しない理由を説明する理論的基盤として受け入れられてきた。しかし近年、骨髄のニッチ細胞はHSCよりもはるかに多いことがわかり、この古典的モデルの妥当性は揺らいでいた。
私たちはHSC数の制御機構を再検証するため、マウスの大腿骨を他の個体に移植してニッチを人為的に増やす「骨移植法」を開発した。従来のモデルが正しければ、ニッチを増やせばHSCも増えるはずだが、実際には全身のHSC総数は増えなかった。さらに、ニッチが増えた状況において、HSC総数は骨髄外で産生されるトロンボポエチンの量に依存することも判明した。一方、四肢のみを放射線照射して局所的にHSCとニッチを減らしても、非照射部位でHSC数の補填はみられなかった。すなわち、HSC数はニッチが少ない際は「局所的」に、ニッチが豊富な状況では「全身性因子」によって制限されるという、二重の仕組みによって精緻に調整されていることが示された。
受賞者のコメント
このたびは、このような名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。本論文は、メンターのご指導、研究費のサポート、共同研究者やラボメンバーとの日々の活発な議論に支えられて生まれた成果であり、多くの方々のお力があってこその受賞と、深く感謝しております。研究の過程では苦労も少なくありませんでしたが、粘り強く取り組む中でさまざまな発見がつながり、幸運にも恵まれました。ご多忙の中、丁寧に審査してくださった先生方にも心より御礼申し上げます。この受賞を励みに、今後も研究に真摯に取り組んでまいります。
審査員コメント
岩澤 絵梨先生
造血幹細胞の数はニッシェのサイズに依存しているのか、という疑問に対して、大腿骨を移植する実験系を通して、ニッシェを加えても造血幹細胞の数は変化しないことを証明する、非常に大胆な研究です。造血幹細胞の、全身および局所でのコントロールを証明するためにパラバイオーシスを含め膨大な量の実験を行いsolidなデータを示していること、また申請者自身がcorresponding authorもつとめておられ、今後のキャリアに対しても非常に重要な論文であると考えられます。
清家 圭介先生
造血幹細胞は骨髄ニッチに依存して維持され、ニッチの量が造血幹細胞の総数を規定すると考えられてきました。本研究ではマウスモデルを用い、造血の場である大腿骨を移植して骨髄ニッチを増加させることで、造血幹細胞の数の制御機構を解明しています。ニッチを増やしても、造血幹細胞は全身的には増加せず、さらに各骨髄ごとにも造血幹細胞数に上限が存在することが示されました。加えて、この全身性の制御機構においてトロンボポエチンが重要な役割を担うことが報告されています。造血幹細胞は白血病など血液悪性腫瘍の起源となり得る一方で、骨髄ニッチはHSCの過剰な増殖や白血病化を抑制する「セーフガード」として機能している可能性が示唆されます。白血病細胞そのものだけでなく、骨髄ニッチを標的とした治療戦略にもつながり得る点で重要な研究です。
井上 己音先生
大腿骨皮下移植により、人為的に幹細胞"nicheを増やす"手技を確立することで、nicheと造血幹細胞数HSCとの関係を検討した研究です。放射線照射により"nicheに空きを作る"手法は古くから行われてきましたし、重要な知見をいくつも発見してきました。一方、本研究では"外付けniche"のようなものを作るという新しいアイデアにより、niche volumeのみが全身のHSC数を規定するのではない、という大変興味深い知見を発見しています。発想の転換自体もすごいですが、そこに複数のマウスモデルを追加することで、全身とniche局所でのHSC数がどのようにコントロールされているかを教えてくれます。個人的には、論文の核となる「全身のHSC numberの測定」に要したであろう技術力・労力にも感動しました。
1)研究者を目指したきっかけ
私は医学部を卒業後、血液内科医として白血病などの血液がんの診療に従事しました。当初は、臨床の現場で研鑽を積むことが、患者さんの治療成績の向上に最も直結すると考えていました。ところが実際には、新しい分子標的薬など、研究から生まれた治療法が患者さんの予後を大きく変える場面を何度も目の当たりにしました。その経験から、目の前の患者さんを診ることに加えて、未来の治療をつくる研究にも大きな力があると感じ、physician-scientistの道に強く惹かれるようになりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
血液をつくるもとになる造血幹細胞は、赤血球や白血球、血小板といったすべての血液細胞の出発点です。この幹細胞の数や働きが乱れると、血液を十分につくれなくなったり、加齢や遺伝子変異をきっかけに白血病のもとになる細胞へと変化したりします。私は、造血幹細胞の数がどのように保たれているのかを理解することが、十分な血液細胞を供給することにも、血液がんを防ぐことにもつながるのではないかと考え、この研究に取り組んでいます。幹細胞を維持する仕組みを解き明かすことが、体の成り立ちや病気への理解を深め、新たな治療戦略の開発にもつながる点に大きな魅力を感じています。
3)この研究の将来性
造血幹細胞は、白血病などに対する移植治療で使われる重要な細胞です。移植の前には患者さんの体内の造血幹細胞がほぼなくなるため、移植された幹細胞が増えて血液細胞が回復するまでには時間がかかります。その間は細菌やウイルスと戦う白血球が少なく、感染症が起こりやすい状態が続きます。今回の研究によって、造血幹細胞がどのようにして適切な数まで回復するのかが明らかになれば、移植後の回復を早めたり、合併症のリスクを減らしたりする新たな手法の開発につながる可能性があります。将来的には、より安全な移植医療の実現に貢献したいと考えています。
留学や研究生活にまつわるエピソード
私が留学したPaul S. Frenette研究室は非常に国際色豊かで、ポスドクの出身国は10か国を超えていました。研究の議論はもちろん、日々の会話を通じて多様な価値観に触れ、日本では得難い経験を積むことができました。Paulがプロジェクトの途中に急逝されるという悲しい出来事もありましたが、その後はUlrich Steidl、Kira Gritsmanといった研究者や、彼らのラボメンバーに支えられ、異なる視点から研究を考える大切さを学びました。
また、家族と過ごす時間が増えたことも留学生活の大きな喜びで、散歩や家庭菜園など何気ない日常が心の支えになっています。留学を取り巻く環境が厳しくなっている昨今ですが、異国での研究や生活は自分の世界を広げてくれるかけがえのない経験だと思います。



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