[奨励賞] 江藤 徳宏 / フランス国立科学研究センター
- UJA Award
- 3 日前
- 読了時間: 5分
Tokuhiro Eto, Ph.D.
[分野:化学・工学・物理・数学分野]
論文リンク
論文タイトル
A structure-preserving finite element method for the multi-phase Mullins–Sekerka problem with triple junctions
掲載雑誌名
Numerische Mathematik
論文内容
本論文は、三つ又(トリプルジャンクション)を含む複雑な境界構造をもつ多相系に対して、界面が時間とともに動く Mullins–Sekerka 流を高精度に計算する手法を提案したものです。Mullins–Sekerka 流は、界面の「表面エネルギー(境界の長さなど)」を減らそうとしつつ、各相の面積(体積)を保つという特徴をもちます。
従来、このような多相・多領域の界面運動を、境界を明確に扱うシャープインターフェースとして安定に近似する方法は十分に確立されていませんでした。本研究では、界面を頂点と線分で表すパラメトリック有限要素法を用い、連続モデルの基本原理を離散レベルでも保つ「構造保存型スキーム」を構築しました。
本手法は、
・界面の総長さに対応するエネルギーが時間発展とともに減少する、
・各相の面積を厳密に保存する、
という物理的に重要な性質を必ず満たします。さらに、接線方向の速度を適切に与えることで節点の偏りを防ぎ、再メッシュを必要としない実用的な計算を実現しています。
三相以上の典型的な例で数値実験を行い、計算の安定性と収束性を確認しました。本手法は、多結晶材料の微細構造の進化、相分離現象、複数界面をもつ流体シミュレーションなど、幅広い分野で有用な基盤技術になると期待されます。
受賞者のコメント
この度はUJA論文賞奨励賞を賜り、誠にありがとうございました。
博士課程における海外研究留学の経験や、現在フランスの研究機関に所属していることもあり、これまで海外での研究活動や国際共同研究に携わる機会に恵まれてきました。そうした中でUJAのネットワークを知り、本賞に応募させていただきました。
分野を問わない賞とは伺っておりましたが、これまで医学系の受賞が多い中で、数学分野の研究として評価いただけたことに、驚きとともに大きな喜びを感じております。
今回の受賞を励みに、今後も研究活動に一層精進するとともに、日本人研究者コミュニティおよび自身の専門分野の発展に少しでも貢献していきたいと考えております。
この度は誠にありがとうございました。
審査員コメント
利根川 吉廣先生
Cahn-Hilliard方程式の特異摂動極限として得られるMullin-Sekerka方程式の数値計算についての研究で,特に多相の場合を想定したものとなっている.再メッシュの必要がない安定的な手法で,数値実験の結果も良好である.数学的にも興味深い結果となっている.
1)研究者を目指したきっかけ
高校生の頃から微分積分が好きで、大学では数学科に進学しました。しかし、大学で学ぶ数学は高校までのものとは大きく異なり、最初はとても驚きました。高校では、すでに用意された公式や道具を使って計算することが中心ですが、大学では「数とは何か」といった基本的な概念を、集合という考え方を使って一から作り上げていきます。
その内容は非常に難しく、途中で挫折しかけたこともありました。しかし大学院に進学した頃、「普通は微分できないものでも、より広い意味では微分できる」と考える理論に出会い、大きな衝撃を受けました。
それをきっかけに、数学は単なる計算ではなく、新しい考え方や理論を自分たちで作り上げていく学問なのだと実感し、その魅力に引き込まれていきました。現在もその面白さに支えられて、研究を続けています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私の研究テーマは、「形がどのように変化していくか」を記述する数学、いわゆる幾何学的発展方程式の解析や数値シミュレーションです。例えば、結晶が成長する様子や、材料の中で境界が動いていく現象など、自然界には「形が時間とともに変わる」現象が数多く存在します。そうした現象を、数学の言葉でどのように表現し、理解できるのかということに興味を持っています。
学部時代には、偏微分方程式や関数空間といった純粋数学を中心に学びましたが、それらの理論が実際の自然現象の理解や応用につながることに、大きな魅力を感じました。
特に印象的だったのは、「形の変化を表す法則」は一見すると単純な微分方程式の形をしていないにもかかわらず、それを工夫して微分方程式として捉え直すことで、解の概念を広げて考える必要が出てくる点です。こうした考え方に触れたとき、数学が新しい見方を与えてくれる学問であることを強く実感し、この分野を研究テーマとして取り組み続けています。
3)この研究の将来性
私の研究は、「形がどのように変化していくか」を数学的に理解し、それをコンピュータで正確に再現することを目指しています。こうした研究は、一見すると抽象的に見えますが、将来的にはさまざまな分野で役立つ可能性があります。
例えば、材料科学の分野では、金属や半導体の中で結晶がどのように成長するかを理解することが重要です。形の変化を正しく予測できれば、より性能の良い材料を設計することにつながります。
また、医療分野でも、細胞の形の変化や組織の成長、さらには腫瘍の広がり方などをモデル化する際に、同じような数学が使われることがあります。こうした現象を数値シミュレーションで再現できれば、病気の理解や治療法の検討に役立つ可能性があります。
さらに、コンピュータグラフィックスや画像処理の分野でも、「形を滑らかに変形させる」技術は重要であり、数学的な理論がその基盤となっています。
このように、基礎的な数学の研究はすぐに直接役立つものではないことも多いですが、長い目で見ると、科学技術や社会のさまざまな分野を支える重要な役割を果たすと考えています。
留学や研究生活にまつわるエピソード
留学を通じて得られる最大の財産の一つは、研究者同士のつながりだと感じています。こうしたネットワークは、アカデミアに進んでも企業に進んでも、その後のキャリアの中で長く活きていきます。実際、博士課程在学中に留学した大学を、数年後に再び研究訪問する機会にも恵まれ、国際共同研究を継続するうえで大きな支えとなっています。
日本での生活から一歩踏み出して留学することには、不安も多いと思います。しかし、私自身の経験から、周囲の助けを借りながら勇気を持って挑戦すれば、さまざまな困難を乗り越えていけると実感しています。留学は決して特別な人だけのものではなく、一歩踏み出すことで新しい可能性が広がる経験だと思います。



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