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[奨励賞] 池洲 諒 / University of California, Los Angeles

Ryo Ikesu, Ph.D., M.D.

[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]


論文リンク


論文タイトル

Long-Term Postoperative Outcomes by Surgeon Gender and Patient-Surgeon Gender Concordance in the US


掲載雑誌名

JAMA Surgery


論文内容

外科手術の成績は、外科医間で患者要因では説明できないばらつきがあり、女性外科医の患者は男性外科医の患者より短期的な術後死亡率が低いことが報告されている。また、外科に限らず、医師と患者の性別の一致が患者アウトカムに良い影響をもたらす可能性が示唆されている。しかし、外科医の性別や外科医と患者の性別一致が長期的な術後成績に与える影響はほとんど明らかではない。

本研究は、米国メディケアの診療報酬データを用い、外科医の性別および外科医と患者の性別一致が長期的な術後成績に与える影響を検討した。2016-2019年に主要手術を受けた65歳以上の約220万人を対象に、年齢や併存疾患等の患者要因、経験年数等の外科医要因、さらに病院の固定効果を調整し、術後90日と1年の死亡、再入院、合併症率を比較した。その結果、女性外科医の患者は男性外科医の患者より術後90日死亡率が低く、この傾向は患者の性別によらず同様であった。また、女性患者では外科医と性別が一致する場合に術後90日再入院率および合併症率が低かった一方、男性患者では差がみられなかった。これらの傾向は術後1年でも一貫していた。

本研究は、外科医の性別および外科医と患者の性別一致が長期的な術後成績に関わる要因であることを、全米規模のデータを用いて初めて検証した。全ての患者に最適な外科診療を提供すべく、背景にある詳細なメカニズムの理解を促す重要な論文である。


受賞者のコメント

この度は、奨励賞を受賞することができ大変光栄です。審査員の先生方をはじめ、UJA論文賞を支えてくださる関係者の皆様に感謝いたします。


審査員コメント


神前 拓平先生

本研究は、米国Medicareの全国データを用いて、術者の性別および患者‐術者性別一致が長期術後アウトカムに与える影響を検証した、非常にスケールの大きい観察研究である。90日および1年という長期指標を用いた点は、従来の30日アウトカム中心の研究を大きく拡張しており、外科医療の質評価に新たな視点を提供している。

病院固定効果を用いた解析や、術者経験・症例数・患者背景を詳細に調整した解析設計は堅牢であり、観察研究として因果推論に最大限近づこうとする姿勢が評価できる。特に、女性術者による治療が男女いずれの患者においても長期死亡率の低下と関連していた点は、臨床的にも社会的にも重要な示唆を含んでいる。

また、女性患者においてのみ患者‐術者性別一致が再入院率・合併症率の低下と関連していた点は、医師‐患者間のコミュニケーションやケアプロセスの重要性を示唆しており、単なる技術的差異にとどまらない外科医療の質の側面を浮き彫りにしている。

一方で、観察研究である以上、未調整交絡や患者選択バイアスの可能性は完全には否定できず、また本研究ではそのメカニズムを直接検証することはできていない。今後は質的研究やプロセス評価を組み合わせることで、なぜこの差が生じるのかを明らかにする研究が期待される。

本研究は、外科医療の質を「誰が行うか」という観点から再考させる重要なエビデンスであり、外科医育成、チーム医療、医療制度設計にまで影響を与えうる意義深い研究である。


小島 秀信先生

本論文では、外科医の性別が術後アウトカムに与える影響について検討されています。医師の性別が患者の治療成績に影響を及ぼす可能性については、本邦からの報告(PMID: 36170985)や、外科領域以外においても近年報告がなされており(PMID: 38648639)、本研究は話題性と社会的関心の高い内容となっています。

本研究によると、65歳以上の患者においては女性外科医が手術を行った場合に術後死亡率が低く、特に女性患者では再入院率や合併症が少ないことが示されています。約230万人という非常に大規模なサンプルサイズを用いた解析であり、結果は大変説得力のあるものです。今後は若年層を含めた解析や、その背景にある真のメカニズムの解明が進むことが期待されます。また、欧米と比較して女性外科医が圧倒的に少ない日本においては、女性外科医を増やすための取り組みの重要性を示唆する研究であると考えられます。


氏家 直人先生

患者‑術者間の性別一致と術後長期成績の関連を、米国のメディケアデータを用いて検討した報告です。女性術者による手術例では、90日・1年術後死亡率が男性術者例より低く、特に女性患者において性別一致が再入院率や合併症率の低減と関連していたことを明らかにしました。術者性別が患者転帰に与える影響を体系的に示した点は、外科医療の質向上や患者‑術者関係の理解に資する意義ある知見といえます。


金子 直樹先生

医師の性別が手術成績に影響を与える可能性は示唆されてきましたが長期転帰のエビデンスは十分ではありませんでした。本研究は200万件を超えるMedicareデータベースを用い、hospital fixed effects を含む高度な解析設計で、術後 90 日および 1 年の死亡、再入院、合併症といった長期術後アウトカムと術者の性別との関連を検討しています。さまざまなバイアスの影響を抑えるためにhospital fixed effects を組み込み同一病院内で比較することで、病院間の体制差や症例集積の偏りを抑えた設計にしている上に、多重比較補正を加えています。結果は全体で女性外科医の患者は 90 日死亡 2.6% 対 3.0%、1 年死亡 3.9% 対 4.4% と低く、この差は主に非緊急症例で明確でした。さらに再入院は 90 日と 1 年の両方で女性外科医の方が低く、合併症も少なくとも短期 90 日では低い方向が示されました。さらに女性患者では女性外科医との gender concordance に関連した再入院合併症の低下が観察されています。これらの所見は外科領域の質の改善に加え、医療政策や労働力の議論にも波及し得る重要な示唆を持つ重要な研究成果と考えます。


1)研究者を目指したきっかけ

医師として医療機関で働くなかで、医療が抱える課題は、純粋に医学的な問題だけではないことを実感しました。患者さんの社会経済的背景や、医療の制度・システム上の制約など、さまざまな要因が医療の質やアウトカムに影響していると感じました。そうした課題を研究を通じて解きほぐし、医療をより良いものにすることで、多くの患者さんの健康に貢献したいと考え、研究者を志すようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

手術のアウトカムには、医療提供者の間でばらつきがあることが知られています。近年、医師の性別・ジェンダーに注目が集まるなかで、手術成績との関連を検証することは、よりよい外科診療を追求するための議論の活性化につながるのではないか、と考えました。


3)この研究の将来性

本研究では、外科医の性別や、外科医と患者の性別一致が、長期的な術後成績に関わる要因であることを示しました。今後、この背景にある詳細なメカニズムの解明を進めることで、すべての患者がよりよい外科診療を受けられる体制づくりにつながることを期待します。

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