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[奨励賞] 洲鎌 なつ / Tufts University, Ajinomoto Co., Inc

Natsu Sugama, M.S.

[分野:化学・工学・物理・数学分野]


論文リンク


論文タイトル

Modulation of nutritional composition and aroma volatiles in cultivated pork fat by culture media supplementation


掲載雑誌名

Frontiers in Nutrition


論文内容

気候変動や人口増加による将来の食料不足が懸念される中、培養肉は持続可能なタンパク質生産法として注目されています。従来の畜肉では、飼料の組成を変えることで風味を調整できますが、その飼育には数か月を要します。一方、動物の細胞を培養して作る培養肉では、培地によって短期間で栄養や風味を制御できる可能性がありますが、その実態は十分に検証されていませんでした。

本研究では、ブタの脱分化脂肪細胞を用い、培地組成の違いが加熱時に生成される香気成分(揮発性有機化合物)に及ぼす影響を動的ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで解析しました。その結果、脂肪分化誘導培地に6日間、ビタミンB1を加えると、培養脂肪を焼いた際に生じる、ナッツ様の香気成分スルフロールが増加しました。またL-メチオニン添加によりポテト様の香気成分メチオナールが増え、さらにミオグロビン添加では香気全体のバランスが変化し、γ-ノナラクトン(ココナッツ様)、(E,E)-2,4-デカジエナール(揚げ肉様)、2-ペンチルフラン(フルーティーな香り)などの香気成分が顕著に増加しました。

これらの結果は、培地組成を工夫することで培養肉の香りを自在に設計できる可能性を示しており、培養条件を通じて「おいしさ」をデザインする新たな食品科学の展開につながる知見といえます。


受賞者のコメント

このような素晴らしい賞を受賞できたことをとても嬉しく思います。研究を支えて下さった全ての方と、運営・審査員の皆様へ、心から感謝申し上げます。サステイナブルな食と、ワクワクして頂けるサイエンスの実現に向けて、これからの研究に取り組んで行きます。


審査員コメント


庄司 観先生

本論文は、培養肉の香りに着目し、培養液の組成を操作することで加熱処理した脂肪細胞の香りの操作を実現している。培養肉の研究をしている知人から、培養肉は食べられるけどおいしくはないという話を聞いたことがあり、このように簡便な手法で香りやうま味を上手く操作することで、培養肉の実用化が実現できると感じた。


金井田 將裕先生

本論文は培養肉としての利用が期待されるブタ脂肪細胞の培養において、培地成分の添加剤から直裁的に香気成分の生成量/組成比を変化(向上)させることを目的に分子レベルでの分析を行った論文です。特に著者らは、FBSやミオグロビン、チアミン、L-メチオニンなどの香気成分前駆体の培地添加において細胞の増殖速度や効率性、香気成分の上昇が有意に起こることを見出し、最適濃度などを決定しています。

当該分野は他の学問分野と比して比較的近年から研究が進められたものであり、いまだ方法論の確立には研究の余地があると考えられます。本論文は、食料問題における持続性、供給性、倫理問題など今後人類が直面するであろう問題に向けた基礎研究として価値のある先駆的な知見を与えるものです。興味深く読ませて頂きました。


中根 啓太先生

この研究では、これまでにはほとんど行われてこなかった培養肉の培養条件に着目し、加熱した豚肉由来の脂肪細胞の香り成分(揮発性化合物)の調節を試みました。Thiamine-HCl、L-methionine、myoglobinを添加することで変化する揮発性化合物をDHS-GC–MS分析により網羅的に分析しました。特に、myoglobinの添加はγ-nonalactone、(E, E)-2,4-decadienal、2-pentylfurannoといったフルーティーな香り成分の増加が確認されました。今後は、これらの知見をもとに培養肉のうま味や香りを向上させる研究の加速が期待されます。


内田 昌樹先生

本論文は、脂肪細胞の培養条件が最終的な揮発性香気成分に及ぼす影響を系統的に解析し、細胞生物学と食品化学を結びつけた点に特徴がある。チアミン、L-メチオニン、ミオグロビンといった分子を培地に添加することで、加熱後に生成する揮発性香気成分を調整出来ることを示しており、培養肉を開発する上で、条件最適化研究の基盤となる知見を提供した研究として価値が高いと考える。本研究で示された機器分析による揮発性成分の結果と、ヒトが嗅覚で感じる結果がどう相関するか興味があるところで、今後のさらなる研究が待たれる。


1)研究者を目指したきっかけ

学部時代の研究室がきっかけでした。自分で手を動かして出てきた結果が、世界で初めての発見となること、他の研究者の方が「あなたの研究は面白い!」と感動してくれることが素直にとても嬉しいと思いました。論文や特許として、その記録が未来にも残り続けることに感銘を受け、研究っていいなぁと思うようになりました。留学先でも、サイエンスを共通言語として、国も文化も飛び越えて面白さを分かち合えることに感動しました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

多種多様な中に共通原則があることに感動し、バイオの分野に進みました。バイオを活かして、地球のサステイナビリティに貢献できるような仕事に人生を賭けたいと思い、現在の分野にハマりました。とりわけ、培地のレシピが細胞中の代謝物を変えて、これを焼くことで別な物質に変わり、香りを放つ という、バイオと有機化学と食の境界領域が、非常に遣り甲斐があります。生物を活かして、美味しくてサステイナブルな食を創り出していきたいと思います。


3)この研究の将来性

人口増加と温暖化による気候変化で、これからの未来では、食糧確保が難しくなっていくと予想されています。培養肉は、このうち不足するタンパク質を、細胞で作る方法です。代替肉はプラントベースドなど色々開発されていますが、コスト高やリアル肉との風味の違いが、消費者需要の大きな課題です。しかし、ただ代替するだけでなく、もっと美味しく健康に良いものが作れれば、消費者が積極的に食べたくなるきっかけになります。本研究では、培地のレシピが細胞内代謝物の濃度を変化させ、細胞を焼いた時に生じる香気物質の濃度を変えることを示しました。培養肉に限らず、微生物や植物の文脈も含めて、「育てながら、味と香りと栄養を変える」ことはサステイナブルな食料を生産するのに画期的な手段となります。


留学中のサポートやコミュニティについて

子供が小さく、早朝や夕方に遠くへ出向けなくて、現地での日本人会参加が難しかったです。朝会が、各大学ごとに順繰りで行われると良いなと思います(MIT→Harvard→Tufts・・・など)


留学や研究生活にまつわるエピソード

英語ができなくても、子どもが小さくても、何とかできます(なんとかなる、ではなく、なんとかする)。英語学習には魔法はなく、努力あるのみだと思います。2歳だった息子は初めは保育園でギャン泣きでしたが、いつの間にか流暢な英語を話すようになり、素敵な親友もできました。生活トラブルも色々ありますが、家族みんなが健康で安全なら、全ては何とかできます。私も夫も、一生ものの研究仲間ができ、留学生活は人生の宝物になりました。

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