[奨励賞] 清島 典子 / NCI
- UJA Award
- 4 日前
- 読了時間: 6分
Noriko Seishima, Ph.D., M.D.
[分野:免疫分野]
論文リンク
論文タイトル
Enhancing DC cancer vaccine by allogeneic MHC class II expression and Treg depletion
掲載雑誌名
JCI Insight
論文内容
本研究では、樹状細胞(DC)を用いたがんワクチンにおいて、患者(マウス)自身と同じ遺伝的背景を持つ「自家DCワクチン」と、MHCの一部のみが異なる「半同種(semiallogeneic)DCワクチン」を比較し、その治療効果を評価した。自家DCはC57BL/6Jマウス由来、半同種DCはMHCクラスIまたはクラスIIに点変異を持つB6.C-H2-Kbm1/ByJまたはB6(C)-H2-Ab1bm12/KhEgJマウスから作製した。B16-F10およびTC-1腫瘍モデルで解析した結果、MHCクラスIIに変異を持つ半同種DCワクチンが最も強い抗腫瘍効果を示した。この効果は、変異MHCクラスIIによって生じる“他者刺激(allogeneic stimulation)”がCD4陽性T細胞を活性化し、その支援によりCD8陽性T細胞の抗腫瘍活性が増強されるためである。また、この半同種DCは自家MHCクラスIを保持しており、腫瘍ペプチドの提示能力が維持される点も利点である。さらに、CD4 T細胞からの支援効果は腫瘍の早期で特に得られやすい一方、腫瘍進行後にはTreg(制御性T細胞)による抑制の影響が強まったが、Treg除去と併用することで治療効果がさらに向上した。以上より、MHCクラスIIに限定した“半同種性”をアジュバントとして利用するDCワクチン戦略は、自家DCワクチンに代わる有望ながん免疫療法となる可能性が示された。
受賞者のコメント
奨励賞を受賞する機会をいただき、大変光栄に思います。
もともと夫の研究留学に帯同し、3人の子どもを連れて渡米した当初は、自身が研究に携わることは想定していませんでした。しかし、現地でNCIのポスドクとしての機会をいただき、第4子の出産を経験しながら研究を継続し、最終的に一つのプロジェクトを論文としてまとめることができました。この経験は、今後の臨床および研究の両面において、大きな自信につながったと感じます。
審査員コメント
武藤 朋也先生
本研究は、腫瘍抗原提示そのものは“自己MHC”で維持しながら、同時に“他者由来MHCクラスII”を組み込むことで強いCD4ヘルプ(アジュバント効果)を引き出すという、semiallogeneic DCワクチンの設計原理を明快に示しました。結果として抗腫瘍CD8 T細胞応答が増強され、さらに治療後期のTreg制御を組み合わせることで効果を最大化できる点まで示した、臨床実装を強く後押しする成果です。
清家 圭介先生
DCワクチンは安全性が高い一方で、有効性には課題が残っています。そこで著者らは、半同種DC(自己MHCクラスI+同種MHCクラスII)を用いることで、同種反応性CD4⁺ T細胞により細胞傷害性CD8⁺ T細胞が増強され、抗腫瘍効果が増強されることを示しました。本研究は、将来的な臨床応用における最大の課題である有効性の向上に寄与する重要な知見です。
兼重 篤謹先生
従来の樹状細胞(DC)ワクチンは自家樹状細胞を用いるため、腫瘍抗原に対するCD8⁺T細胞応答を誘導できても、CD4⁺T細胞のヘルプが不十分で抗腫瘍効果が限定される。本研究では、MHCクラスIIが変異した半同種(セミアロジェニック)樹状細胞を用いることで、CD4⁺T細胞のアロジェニック刺激を介してCD8⁺T細胞応答を増強し、腫瘍抑制効果が向上することを示している。これにより、従来の自家DCワクチンに比べて、より強力な免疫療法戦略となる可能性が示され、有用な研究である。
1)研究者を目指したきっかけ
日本では耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として臨床に携わっており、研究は医学博士を取得するための数年間に限られていました。臨床の現場で患者と向き合う中で、がん免疫の重要性や可能性に関心を持つようになりました。
その後、夫の研究留学に帯同して渡米し、現地で研究に携わる機会をいただいたことで、これまでとは異なる研究という形で医学に深く向き合う経験をしました。自分で仮説を立てて検証し、新しい知見を見つけていく過程に面白さを感じると同時に、医学の進歩には研究が不可欠であることを実感しました。
こうした経験を通して、臨床だけでなく研究という視点からも医学に関わり続けたいと考えるようになりました。研究に興味を持つきっかけは人それぞれでよく、小さな関心からでも新しい道が広がるのだと感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私はアメリカでの研究留学をきっかけに、がん免疫の分野に進み、樹状細胞を用いた免疫療法の研究に取り組んできました。もともと特定の分野を強く志望していたわけではありませんが、実際に研究に関わる中で、この分野の面白さと可能性に強く惹かれるようになりました。
がん免疫療法は、患者さん自身の免疫の力を利用する治療ですが、十分な効果が得られないこともあります。そこで私は、より強い免疫応答を引き出し、治療効果を高めることを目指した新しいアプローチに取り組んできました。患者とは異なるMHCクラスIIを利用したアロジェニックな方法により、強い免疫反応を誘導できる可能性に着目しています。
さらに、この考え方は将来的に、幅広い患者に適用可能なoff-the-shelf型の治療へと発展する可能性がある点にも魅力を感じています。研究を通して、新しいがん治療の選択肢を広げることに貢献したいと考えています。
3)この研究の将来性
私の研究は、遺伝子改変によりMHCクラスIIを発現させた樹状細胞を用いて、がんに対する免疫反応をより強く引き出すことを目指しています。
現在のがん免疫療法は大きな進歩を遂げていますが、すべての患者に十分な効果が得られるわけではありません。私の研究では、患者とは異なるMHCクラスIIを利用したアロジェニックなアプローチにより、より強い免疫応答を誘導し、治療効果の向上につながる可能性があります。さらに将来的には、この技術を発展させることで、多くの患者さんに共通して使用できるoff-the-shelf型の治療へとつながることも期待されます。
このように、遺伝子改変技術と免疫療法を組み合わせることで、がん治療の新たな選択肢を広げ、より多くの患者さんに貢献できる可能性があると考えています。
留学や研究生活にまつわるエピソード
家族で渡米した当初は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあり、子どもたちの学校生活や保育園での対応も異なり、戸惑いや負担を感じることもありました。
しかし、日本人家族の多い地域に住んでいたことで、ママ友をはじめ多くの方に支えていただき、異国の地でも安心して子育てを続けることができました。日本にいるとき以上に、子育ては一人で抱えるものではなく、周囲と支え合いながら行うものだと実感した経験でもあったと思います。
また、アメリカで出産し、生後8週間から保育園に預けて研究を再開しましたが、日本とは異なる環境で新生児からの子育てを経験できたことも貴重な時間でした。子ども達も英語環境の中で学校生活やサマーキャンプ、スポーツなどに積極的に参加し、家族全体で海外生活を充実させることができたと感じています。
海外留学は研究だけでなく、家族や自分自身の価値観を広げる大きな機会でもあります。不安もあると思いますが、一歩踏み出すことで想像以上に多くの出会いや経験が得られると思います。



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