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[奨励賞] 矢野 光剛 / UT MD Anderson Cancer Center、大分大学、埼玉医科大学国際医療センター

Mitsutake Yano, Ph.D., M.D.

[分野:サイエンスを遊ぼうの会(ヒューストン、テキサス)]


論文リンク


論文タイトル

PPP2R1A mutations portend improved survival after cancer immunotherapy


掲載雑誌名

Nature


論文内容

PPP2R1A遺伝子変異は婦人科癌で頻度が高く、卵巣明細胞癌の10%、子宮体部漿液性癌の40%、全身のがんでは5%未満でみられます。我々はPPP2R1A変異がんが、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法に高い感受性を示すことを発見しました。

本研究は、卵巣明細胞癌に対する第2相臨床試験がベースとなっています。この変異を持たない患者においては、免疫チェックポイント阻害剤後の全生存期間がわずか9カ月であったのに対して、PPP2R1A変異型腫瘍を持つ患者では67カ月と顕著な予後改善効果を認めました。続いて、基礎研究やバイオインフォマティクスによる裏付けを行いました。基礎研究では免疫環境を再現する工夫が必要でした。患者腫瘍組織移植モデルではヒト免疫系を移植した免疫不全マウスを用い、またCRISPRで編集した変異型・野生型マウス卵巣癌細胞に対しては免疫正常マウスを用いました。in vitro実験では、CD19を強制発現させたヒト卵巣癌細胞とCD19標的CAR-T細胞と共培養することによって疑似的な免疫環境を作成しました。いずれの実験系においてもPPP2R1A変異は免疫療法への脆弱性を示しました。さらに様々ながんを含む9,000人をこえる患者データにおいても、PPP2R1A遺伝子変異がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の予後改善効果が示されました。

免疫チェックポイント阻害剤の新たなバイオマーカーを発見し、異なる手法による強固な裏付けを行った本研究は、患者への直接な貢献が可能な研究として評価されました。


受賞者のコメント

この研究は米国留学後に初めて出た論文です。また憧れのNature誌に名前が載るということで夢が叶った心地でした。臨床的な研究なので、患者さんへの貢献に繋がっていくことを願っています。


審査員コメント


工藤 麗先生

卵巣明細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害の治療予測バイオマーカーとしてPPP2R1Aを見出し、PPP2R1A/PP2A経路が治療標的としても有効であることを示した論文でした。遺伝子変異、トランスクリプトーム、空間プロテオミクスと多岐にわたる臨床検体の解析と、マウスモデルを用いた検証を行っており、トランスレーショナル研究として非常に完成度が高いと感じました。論文受理までに3年以上かけているところは沢山のお仕事をされたのかと想像しました。


小林 祥久先生

現在最も注目されているがん治療法である免疫療法も、効く人と効かない人がいることが問題で、実臨床で使われているマーカーはPD-L1のみです。本研究では、卵巣明細胞がんを起点としてPPP2R1A遺伝子変異のある腫瘍で免疫療法後の予後が良いことを細胞実験・マウス実験・複数の臨床コホートで示しています。さらに、PPP2R1A遺伝子変異のある腫瘍は免疫がhotであることを示しました。今後のさらなる機序解明によって標準治療化が期待されます。


平田 英周先生

卵巣明細胞癌においてPPP2R1Aの機能喪失変異が免疫チェックポイント阻害療法後の全生存期間および無増悪生存期間を有意に延長することを明らかにし、他のがん種においても同様の関連性が認められることを示しています。免疫療法の有効性に関する予測バイオマーカーとしてPPP2R1A変異が有用である可能性が示唆され、前向き検証も含めた今後の研究の発展が期待されます。


磯崎 英子先生

がん免疫療法の個別化医療を大きく前進させる素晴らしい発見です。今後、より詳細なメカニズムが解明されることを期待しています。


1)研究者を目指したきっかけ

臨床医になって色々な論文を読んで勉強する中で、論文を書く側にもなってみたいと考えたのがきっかけです。


2)現在の専門分野に進んだ理由

産婦人科医なので、婦人科がん(子宮癌や卵巣癌)を治したいと研究を始めました。


3)この研究の将来性

私たちが発表した、PPP2R1A変異を持つがんに免疫療法が著効するというのは、臨床試験と基礎研究で一貫した結果が得られています。多くの研究がある中でも、患者に直接貢献できる研究だと考えています。今後、がん患者さんの遺伝子検査でPPP2R1A変異が検出された場合には、免疫療法が優先度の高い治療選択として挙がる可能性があります。

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