top of page

[奨励賞] 納庄 一樹 / 東京大学

Kazuki Nosho, Ph.D.

[分野:ヨーロッパ]


論文リンク


論文タイトル

Simultaneous spatiotemporal transcriptomics and microscopy of Bacillus subtilis swarm development reveal cooperation across generations


掲載雑誌名

Nature Microbiology


論文内容

構造的には単純な微生物であるバクテリアは、集団として生育する際に、人間社会のように役割分担された複雑なコミュニティを形成する。本研究では、枯草菌の集団を対象に、画像解析および時空間マルチオミクス解析を活用し、集団内における機能的分業とチームワークの実態を明らかにした。枯草菌は、寒天培地表面で「遊走」と呼ばれる二次元的な滑走運動を示す。初期段階では細胞はその場で増殖を繰り返すが、細胞密度が一定の閾値を超えると遊走を開始し、培地上を爆発的に拡がり始める。本研究では、この遊走過程における運動様式が、細胞の位置や時間によって大きく異なることを見出した。さらに、これらの生物学的違いを明らかにするため、独自開発した自動化ロボットを用いてトランスクリプトミクス・メタボロミクス・シングルセル画像解析を実施した。その結果、集団外側の細胞は、培地中の栄養価の高い成分を摂取しながら、活発に未到の領域へと拡がり続けていることがわかった。一方、中間層の細胞は、外層の細胞が排出した代謝産物利用しつつ、外層の遊走を助ける物質を分泌していた。さらに、最も内側の細胞は飢餓状態に近く、急激な環境変動が起きても生き残れるような一種の冬眠状態にあることがわかった。以上の結果から、単純な構造をもつバクテリア集団であっても、時間的・空間的な文脈に応じた役割分担と協調的な生存戦略を備えていることが示された。


受賞者のコメント

このたび、UJA論文賞2026において奨励賞を頂戴し、大変光栄に存じます。分野融合領域で研究を進めてきた自身の経歴上、特定分野や学会活動にとらわれず、研究成果そのものを評価していただける本賞は、大変ありがたく感じております。


審査員コメント


小笠原 徳子先生

本研究では Bacillus subtilis の集団遊走をモデルとして、ライブセル顕微鏡観察とロボットアームによる精密サンプリングを統合した独自の解析プラットフォームを構築している。この手法により、集団遊走過程が生理学的に異なる三つの空間・時間領域に分化することが明確に示された。さらに、質量分析を用いた空間・時間分解メタボローム解析を組み合わせることで、トランスクリプトーム解析から推定された代謝状態の違いが、実際の環境中代謝物の消費・蓄積動態と整合性があることを実証している。また、全データをオンラインで公開しており、理論モデル構築や再解析の基盤データとして非常に価値が高いと考えます。今回の検討は単一菌種のみであり、またサンプリングはバルクRNAseqで、介入実験が限定的ではありますが、微生物集団の時間と空間を持つ発生システムを解析する新しいプラットフォームを構築したという点で著しいインパクトがあると思います。ロボットサンプリング+適応型顕微鏡の技術は非常に高度ですが、興味がある研究室は多いと思いますので、ぜひこの技術をさまざまな研究室に情報共有していただければと思います。


丸山 隼輝先生

本研究はBacillus subtilis のスウォーム形成を対象にし、微生物集団が遺伝子発現・代謝・細胞運動が空間・時間的にどのように結びついて集団構造を生み出すのかを経時的な顕微鏡観察およびロボットアームを使用し特定の位置・時間のサンプリングによるトランスクリプトーム・メタボローム解析を用いて解明を試みた画期的な研究である。本研究で見いだされた時空間的クロスフィーディングは、先行世代が環境中に残した代謝産物を、後続世代が利用することで、協力が時間差をもって成立する世代間相互作用であると結論付けられている。本研究で用いられている手法を応用することでバイオフィルムや細菌叢の形成プロセスの詳細を明らかにすることが期待される。


小野寺 淳先生

題名を見た時は、空間トランスクリプトーム解析の論文だと思いました。ところが中身を読んでみると、枯草菌の増殖を利用した時空間的解析で、そのユニークなアイデアは素晴らしいと思いました。また、その時空間解析を可能にしたカスタムロボットの独自開発技術も大変優れていると思いました。もし、既存の空間トランスクリプトーム解析のシステムを使っていたらかなりの費用がかかる研究であったと思いますが、アイデア次第で既存のRNA-seqの方法を工夫することで、こんなに綺麗な時空間解析が達成できたことは賞賛に値すると思います。


1)研究者を目指したきっかけ

他人のためではなく、自分自身の知的好奇心を追求することがそのまま仕事となり、それによって対価が得られる数少ない職種の一つだと考えたためです。


2)現在の専門分野に進んだ理由

日本に帰国して以降、希少放線菌と呼ばれる珍しいバクテリアを対象とした研究を行っています。私が扱う希少放線菌は、バクテリアでありながらカビのような多細胞器官を形成するという、極めてユニークな生活環を持っています。前職(留学先)では、モデル生物を対象に、マルチオミクス・エンジニアリング・機械学習など、最新技術を駆使した先端研究に取り組んでいました。しかし、世界の誰も研究していないような非モデル生物の、誰も知らない生態を明らかにし、真の生物多様性に切り込むことこそ、アカデミアの重要な役割であると考えるようになり、現在の研究テーマに取り組んでいます。今後は、留学先で培った技術と国際的なネットワークを最大限に活用し、これまで十分に研究されてこなかったマイナー生物の不思議な生き様を解明していきたいと考えています。


3)この研究の将来性

マイナー生物の生き様を研究することは、短期的には社会実装などの「役に立つ」成果に直結しないかもしれません。しかし、誰も研究していない生物に挑み、生物学の未開拓領域を着実に切り拓いていくことこそが、未知を既知へと変えることで発展してきた人類文明にとって、長期的には極めて重要な学術的営みであると考えています。


留学中のサポートやコミュニティについて

家探しなどの日本人情報交換コミュニティ


留学や研究生活にまつわるエピソード

実のところ、私は小心者なので、本当は留学なんて絶対にしたくなかったです。しかし、周りの志の高い友人たちが次々と海外に出ていき、さらに日本で研究が思うように進まなかったことも重なり、キャリアが停滞する前に一念発起して留学を決意しました。実際に留学してみると、存外非常に楽しめました。ですので、あまり難しく考えず、まずは一歩踏み出して留学してみるのもよいのではないかと思います。

コメント


bottom of page