[奨励賞] 西脇 宏樹 / 昭和医科大学藤が丘病院
- UJA Award
- 4 日前
- 読了時間: 9分
Hiroki Nishiwaki, MPH
[分野:JRCC or NUJRA (シカゴ, イリノイ)]
論文リンク
論文タイトル
Time-Updated Estimated GFR Variability Is Associated With Mortality, Cardiovascular Disease, and End-Stage Kidney Disease in Patients With CKD: Findings From the CRIC Study
掲載雑誌名
American Journal of Kidney Disease
論文内容
腎臓の働きを表す指標であるeGFR(推算糸球体ろ過量)は、血液検査で簡単に計算できるため、慢性腎臓病(CKD)の経過観察に広く使われている。これまでの研究では、ある一定期間内でeGFRの値が大きく変動する人ほど、心臓病や死亡のリスクが高いことが報告されてきた。しかし、従来の解析は「最初の一定期間」での変動だけをもとに評価しており、その後の経過に応じた変化を十分に反映していなかった。
本研究では、米国の慢性腎臓病コホート研究(CRIC研究)に参加した4,224人のデータを用い、eGFRの変動をMarginal structure modelを用いて毎年更新しながら解析した。具体的には、3年分のeGFRデータから変動係数を計算し、それを1年ごとにローリングして繰り返し評価した。そのうえで、心血管疾患、末期腎不全、死亡との関連を解析した。
その結果、時間更新型の解析では、従来の「最初の期間のみ」の解析に比べ、eGFRの変動が心血管疾患や腎不全、死亡のリスクとより強く関連していた。すなわち、「eGFRが安定していない」こと自体が、腎臓や心臓の悪化、さらには生命予後に影響する可能性を示唆している。
この研究は、eGFRの「値」だけでなく、その「変動」にも注目することの重要性を示しており、今後のCKD患者の経過観察やリスク評価の改善につながると考えられる。
受賞者のコメント
このたびは、このような賞を頂き、心より嬉しく思っております。留学を実現できただけでも十分に恵まれていると感じていましたが、滞在中に論文を発表する機会にも恵まれ、家族とともに充実した日々を過ごし、無事に帰国できたうえで、このような賞まで頂戴し、大変ありがたく思っております。
留学にあたり送り出してくれた家族、友人、同僚や上司の皆様、日頃より励ましてくださった諸先輩方に深く感謝申し上げます。また、留学先で温かく迎えてくださったTanika Kelly教授、James Lash教授をはじめとするイリノイ大学シカゴ校腎臓内科の皆様にも心より御礼申し上げます。
さらに、留学中に貴重な時間をともに過ごしたNUJRAの皆様とそのご家族、アパートメントのスタッフの方々、子どもの小学校の先生方、ESLで出会った皆さんなど、多くの方々に支えられたことに改めて感謝しております。
特にNUJRAの皆様、あなたたちがいなければ僕はアパートメントの契約もComEdの契約も出来なかったでしょう。インフラはもとより、一生残る思い出と刺激を得ることができました。本当にありがとうございます。
この場をお借りして、すべての皆様に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
審査員コメント
小豆島 健護先生
本論文は、慢性腎臓病患者の予後予測因子として、腎機能(eGFR)変動性と心血管疾患・末期腎障害・死亡の関連性を、従来のベースラインのeGFR変動性を対象として解析する手法(従来モデル)と経時的変化(3年間の連続したeGFR値)を考慮したeGFR変動性を対象として解析する手法(Time-updatedモデル)で比較検討しています。大変興味深いことに、従来モデルと比較して、Time-updatedモデルによるeGFR変動性は心血管疾患・末期腎障害・死亡と非常に強く関連していました。慢性腎臓病患者の予後予測因子の新規候補として、Time-updatedモデルによるeGFR変動性が有用である可能性を提起した意義深い論文だと思います。
菊池 寛昭先生
CRIC studyを使った、素晴らしい着眼点だと思いました。
variability は基本的には悪くなる方向のvariability (eGFR slopeはマイナス)だと思いますが、臨床では薬剤や水分などの影響もあって、よくなる方向に小さくぶれる患者群もいますので、そういう方も意外と予後はよくないのか、なども興味が湧きました。論理的に構成されており、腎領域への貢献という観点で大事な内容だと思いました。
楠 加奈子先生
慢性腎臓病患者4224名を対象とした後向きコホート研究で、eGFR変動性と心血管イベント (CVD)・末期腎不全 (ESKD)・死亡率の関連を調査しました。従来の単一時点測定 (baselineモデル) ではなく、繰り返し測定されるeGFR変動性を評価する時間更新モデルを用いて、臨床転帰の関連を分析した点が新規です。その結果、時間更新モデルではbaseline modelに比べて顕著に大きい効果量を示し (CVD:2.79倍、ESKD:3.39倍、死亡:1.92倍)、eGFR変動性が独立した予測因子であることを示しました。統計学的手法の工夫と層別化マーカーとしての可能性が本論文の特長であり、慢性腎臓病の早期段階での予後予測や治療介入への発展が期待されます。
古荘 泰佑先生
本論文ではCRIC studyのデータを用いて、eGFRの変動と心血管疾患、末期腎不全、死亡との関連をベースラインモデルおよび時間依存共変量モデルで解析し、時間依存共変量モデルを用いることで、eGFRの変動と上記アウトカムとのより強い相関が示された。本結果はリスクファクターとしてのeGFRの変動の重要性を再確認するものであり、頻度、期間などeGFR変動の最適な評価法についての探索につながる重要な知見と考えられる。
佐藤 有紀先生
本研究では、CKD患者においてeGFRの値や傾きだけでなく、そのvariability自体がCVD、ESKD、死亡リスクと強く相関し、新たな予後予測因子とになることを示しており、大変興味深く読ませて頂きました。eGFRのvariabilityの臨床での意義が今後の研究でさらに明確に規定され、日常臨床でどのように使用していくかなど更なる研究の発展を期待します。
1)研究者を目指したきっかけ
医師になった当初は、研究に対してあまり強い興味はなく、目の前の患者さんの診療に全力で取り組む毎日を送っていました。しかし、専門医を取得した頃に「このままどのようなキャリアを歩んでいくのか」と悩むようになりました。
そんな時に出会ったのが「臨床疫学」という分野です。これは、日々の診療の中で感じた疑問を、科学的な方法で検証し、より良い医療につなげていく学問です。この分野に魅力を感じ、キャリアの途中で大学院に進学し、約3年間、研究の方法や考え方を学びました。
大学院での経験は、自分の視野を大きく広げてくれました。物事を多角的に考える力や、「なぜそうなるのか」を深く掘り下げる姿勢は、その後の臨床にも大きな影響を与えています。
その後、再び臨床医として働き始めましたが、日常業務と研究の両立は想像以上に難しく、再び悩む時期が続きました。もともと海外で仕事をしてみたいという思いもあり、「まとまった時間で研究に集中したい」という気持ちが強くなっていきました。
年齢的には留学の適齢期を過ぎているという不安もありましたが、「このまま行かなければ、きっと将来後悔する」という気持ちが背中を押しました。コロナ禍が明けるのを待ち、2023年にアメリカへの留学を実現しました。
振り返ると、研究に興味を持ったきっかけは特別なものではなく、日々の臨床の中で感じた疑問と、それに向き合いたいという気持ちでした。もし少しでも興味があれば、ぜひその気持ちを大切にしてほしいと思います。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私が臨床疫学という分野を選んだ理由は、基礎研究と比べて、研究の成果が患者さんの治療に比較的早くつながる点に魅力を感じたからです。また、日々の診療で得た経験や疑問をそのまま研究に活かしやすいという点も大きな理由でした(現在では、基礎研究の重要性についても強く認識しています)。
現在は腎臓内科を専門とし、幅広いテーマに取り組んでいますが、特にネフローゼ症候群という難病の患者さんの活動量や、保存期の腎臓病患者さんにおける腎機能の悪化をどのように防ぐかといったテーマに関心を持っています。また、研究手法を応用して、膠原病や、がんサバイバーの方の運動療法、パーキンソン病における多職種連携など、他分野のテーマにも取り組んでいます。
今回受賞した研究では、「腎機能の変動」に注目しました。腎臓の働きは時間とともに悪くなることが多いのですが、その変化は一直線ではなく、上がったり下がったりしながら進んでいきます。これまで、この“変動の大きさ”が大きい人ほど将来の予後が悪いのではないかと考えられてきましたが、研究結果は必ずしも一致していませんでした。
また、多くの研究では、最初の一定期間だけ変動を評価し、その後の経過を予測するという方法がとられていました。しかし実際には、その後も腎機能の変動は続いており、その情報は十分に活かされていませんでした。
そこで本研究では、腎機能の変動を「その時点ごとに更新しながら」、過去の変動も含めて評価するという新しい方法で解析を行いました。このように、実際の患者さんの経過により近い形でデータを扱うことで、より正確に将来のリスクを評価できるのではないかと考えています。
臨床で感じた疑問を出発点に、それをデータで確かめ、再び患者さんに還元していくことが、この分野の大きな魅力です。今後も、日々の診療と研究を行き来しながら、より良い医療につなげていきたいと考えています。
3)この研究の将来性
腎機能の経時的な変動の大きさは、将来、患者さんがどのような転機をたどるかを予測するうえで、重要なリスクファクターの一つと考えられます。さらに本研究では、従来の研究とは異なり、この変動を一時点や限られた期間で評価するのではなく、時間とともに変化していく「動的なリスクファクター」として捉えました。
そのため、電子カルテなどから継続的に収集されるデータを用いて、この変動を随時アップデートしていくことで、患者さんのリスクをよりリアルタイムに評価できる可能性があります。
留学や研究生活にまつわるエピソード
留学した時期は、コロナ禍が終わりかけ、人の流れが少しずつ戻り始めた頃でした。滞在中はインフレや円安の影響もあり、決して経済的に余裕のある生活ではありませんでしたが、それでも非常に充実した日々を過ごすことができました。
家族については、息子が小学3年生になるタイミングでの渡航でしたが、驚くほど環境への不適応はなく、結果的に家族の中で一番英語が話せるようになりました。妻も異文化での生活やさまざまな困難を前向きに楽しんでくれており、家族全体で留学生活を支え合えたことは大きな支えでした。
もともと留学は「苦労を買いに行くもの」という意識があったため、多少の困難はむしろ当然のものとして受け入れることができ、あまり辛いと感じることはありませんでした。また、最終的には「行かなければ人生の終わりに後悔する」と思って決断しました。コロナの影響や子どもの年齢など、タイミング的に断念せざるを得ないのではないかと悩んだ時期もありましたが、たとえ行けなかったとしても「やるだけやって諦めたい」という思いで準備を続けていました。
そのため、実際に渡米できた時点で、すでに半分は目標を達成したような気持ちでもありました。
もし今、留学を迷っている方がいるのであれば、「うまくいかなかったらどうしよう」と考えるよりも、まず一歩を踏み出してほしいと思います。迷っているのであれば、答えは一つです。Goです。



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