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[奨励賞] 遅野井 香純 / Cincinnati Chirdren's Hospital Medical Center

Kasumi Osonoi, M.D.

[分野:UC Tomorrow (シンシナティ)]


論文リンク


論文タイトル

Involvement of IL-13-Induced Dysregulation of BDNF-NTRK2 Pathway in Symptoms of Eosinophilic Esophagitis


掲載雑誌名

Allergy


論文内容

本研究は、好酸球性食道炎(EoE)と、症状を示さないにもかかわらず食道に好酸球浸潤を認める無症候性食道好酸球症(aEE)の分子学的特徴を比較し、症状発現に関与する経路を明らかにすることを目的としたものである。EoEはアレルギー性サイトカインIL-13が中心的役割を担うⅡ型慢性炎症性疾患だが、近年、好酸球数の減少が必ずしも症状改善につながらないことが報告され、症状形成の分子機構が注目されている。

本研究では、日本人EoEおよびaEEの患者各20例を対象に、EoE診断パネル(EDP)によるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、両群の食道上皮でEoE関連遺伝子の発現パターンは非常に類似しており、炎症や好酸球浸潤の程度だけでは症状の有無を説明できないことが示された。

次に、症状の差異に関わる遺伝子群を探索したところ、神経栄養因子BDNFとその受容体NTRK2(TrkB)がEoEで特異的に高発現していることが明らかになった。免疫染色では両分子が末梢神経線維近傍に共局在しており、神経シグナルの活性化がEoE症状に関与する可能性が示唆された。さらに、ヒトiPS細胞由来感覚ニューロンを用いた解析では、IL-13刺激がBDNFおよびNTRK2の発現を誘導し、神経の興奮性を高めることが確認され、この変化は抗IL-4Rα抗体デュピルマブで抑制された。

これらの結果から、IL-13により誘導されるBDNF–NTRK2経路の活性化が、EoEにおける痛みや嚥下困難などの症状形成に関与している可能性が示唆された。本研究は、EoEを単なる炎症疾患ではなく、神経免疫相互作用を伴う疾患として捉える新たな視点を提示している。


受賞者のコメント

この度はこのような賞をいただき、大変光栄に存じます。本研究を進めるにあたり、研究初心者であった私を導き、本論文のアクセプトに至るまでご指導くださった先生をはじめ、研究室の皆様に心より感謝申し上げます。また、審査員の方々ならびに関係者の皆様にも御礼申し上げます。本研究が好酸球性食道炎の病態理解および治療の発展につながれば幸いです。


審査員コメント


松本 真典先生

好酸球性食道炎は、嚥下困難、胸痛、胸やけなどの症状を呈する慢性炎症性疾患であることが知られています。一方で、組織学的炎症の程度(好酸球数)と臨床症状の重症度が必ずしも一致しないことが、臨床上の重要な課題となっています。本研究では、症候性好酸球性食道炎患者と、組織学的には好酸球増多を認めるものの症状を伴わない無症候性食道好酸球増多患者の分子プロファイルを比較し、症状形成に関与する分子基盤の解明を試みました。特に、神経障害性疼痛に関連する遺伝子群に着目しています。その結果、症候性好酸球性食道炎患者では、神経および疼痛関連経路に関与する BDNF–NTRK2 遺伝子群の発現が有意に亢進していることが明らかとなりました。さらに、好酸球性食道炎の病態形成において中心的役割を果たすサイトカインである IL-13 が、感覚神経の興奮性を増強するのみならず、BDNF–NTRK2 経路の発現を誘導することも示されました。本研究は、好酸球性食道炎における症状形成を、従来の炎症指標のみではなく神経・疼痛軸の異常という新たな視点から捉えた点で意義深いものです。症状と炎症の乖離を説明しうる分子基盤を提示するとともに、将来的には神経・疼痛経路を標的とした新規治療戦略の開発につながる可能性が期待されます。


神尾 敬子先生

本研究は、好酸球性食道炎症状の発現に BDNF–NTRK2 経路および IL-13 が関与する可能性を示し、従来指摘されてきた 好酸球数と症状の乖離を説明しうる新たなメカニズムを提案しました。今後の好酸球性食道炎の研究や治療戦略の方向性を考える上で重要な示唆を与える成果と評価されます。


三木 春香先生

好酸球性食道炎において、好酸球除去後も残存する症状の機序を免疫による知覚神経制御という革新的な視点から解明した卓越した研究です。EoEと無症候性の食道好酸球増多症aEEのトランスクリプトームの比較解析からBDNF-NTRK2経路の活性化を特定し、IL-13がiPSC由来知覚神経の活動性を直接修飾する可能性を証明した点は新規性が高く、免疫-神経連関を標的とした新たなEoE治療戦略につながる将来性の高い論文であると考えます。


森田 英明先生

「なぜ炎症があっても無症状の患者が存在するのか」という、好酸球性食道炎の根本的な臨床における疑問に、科学的手法で取り組んだ素晴らしい研究です。免疫ー神経連関の可能性も示唆され、今後の研究の発展が期待されます。


1)研究者を目指したきっかけ

臨床の現場で患者さんを診る中で、「なぜこの病気が起こるのだろうか」「難しい病気に対して新しい治療法はないのだろうか」と感じることが多くありました。

こうした疑問をより深く理解したいと思ったことが、研究に興味を持ったきっかけです。

自分で答えを探していく過程に面白さを感じ、研究に取り組みたいと考えるようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

私は小児科医として診療に携わる中で、自己免疫疾患やアレルギー疾患に興味を持つようになりました。特に、症状と検査結果が必ずしも一致しない病気があることに関心を持ち、その仕組みを明らかにしたいと考えています。こうした目に見えにくい仕組みを理解することで、よりよい診療につながると考え、この研究に取り組んでいます。


3)この研究の将来性

好酸球性食道炎は近年増加している疾患ですが、症状の仕組みにはまだ不明な点が多く、十分な治療が難しい場合があります。本研究では、こうした症状の背景にある仕組みに着目しています。症状がどのようにして起こるのかを明らかにすることで、これまで改善が難しかった症状に対しても、新しい治療法の開発につながる可能性があります。また、本研究で用いたような分子レベルや神経の働きに着目したアプローチは、他の病気にも応用できる可能性があります。このような研究が進むことで、今後の医療の発展につながることが期待されます。

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