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[奨励賞] 高橋 利奈 / 東京女子医科大学

Rina Takahashi, Ph.D., M.D.

[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]


論文リンク


論文タイトル

The Association of Fibrate Use with Kidney Outcomes and Mortality


掲載雑誌名

Clinical Journal of the American Society of Nephrology


論文内容

本研究は、脂質異常症治療薬であるフィブラートが腎臓や生命の長期予後にどのような影響を及ぼすかを明らかにした大規模後ろ向きコホート研究です。フィブラートは中性脂肪を下げ、HDLを上昇させる薬剤として広く用いられますが、短期的に血清クレアチニンが上昇することから、その長期的な腎・生命予後の検討は十分ではありませんでした。

本研究では、米国退役軍人68万人(新規フィブラート使用者約5.9万人)を対象に、平均8.5年、最大14年間フォローし、CKD、ESKD、死亡を主要アウトカムとして解析しました。フィブラート開始群と非開始群を公平に比較するため、処方時期の差によるバイアスを避ける「処方時間分布マッチング」を用いました。

その結果、フィブラート使用はCKDリスクの上昇(HR 1.21, 95% CI 1.19–1.24)と関連した一方、ESKD(HR 0.80, 95% CI 0.71–0.92)および死亡(HR 0.91, 95% CI 0.89–0.93)のリスクは有意に低下しました。複数の感度分析でも結果は一貫しており、フィブラートは長期的に腎・生命予後を改善しうる可能性が示されました。

本研究は、フィブラートの長期アウトカムに関する最大規模の疫学データを提示したものであり、脂質管理と腎疾患をつなぐ新たな知見を提供し、その適正使用と脂質管理の再評価に重要な示唆を与えます。


受賞者のコメント

この度は、奨励賞を賜り、誠にありがとうございます。

本論文は留学後2本目の研究成果であり、Clinical Journal of the American Society of Nephrology(CJASN)に掲載されました。執筆および改訂の過程では多くの困難がありましたが、大変思い入れのある論文となりました。

本研究をご評価くださいました審査員の先生方に、心より御礼申し上げます。

今後も本受賞を励みに、臨床に還元できる研究に取り組んでまいります。


審査員コメント


宮本 佳尚先生

米国退役軍人約70万人の大規模コホートを最大14年間追跡し、フィブラート薬の長期的な腎機能への影響を調査した研究。フィブラート処方が非処方と比較して、CKDの発症リスク上昇と末期腎不全の発症リスク低下と関連することを明らかにした研究である。これまでのフィブラートによるクレアチニン上昇(既知)→腎機能悪化の懸念という常識に挑んだ点で大変興味深い。今後介入試験、尿中バイオマーカーなど多面的な点から効果のさらなる検証が期待される。


菊池 寛昭先生

フィブラート使用が腎機能障害(あるいは腎保護)に及ぼす影響に関しては一定した見解が得られておらず、臨床上重要な課題であり、そこに着眼点を置いた意義深い論文であると考えます。Incident CKDが多かったのは、フィブラートの一時的なdipのようなものの影響なのか、気になるところでした。Dr. Kovesdy CP, Dr. Kalantar-Zadehは腎臓の臨床研究で非常に有名であり、本論文は今後fibrateの腎臓における作用の一つのメルクマールになる事が期待されます。


小豆島 健護先生

本論文は、米国退役軍人のデータベース(70万人弱、最大追跡期間14年)を用いて、フィブラート系薬剤が慢性腎臓病の発症、末期腎障害への進展、そして死亡率に対してどのような影響を与えるのかを調査しており、長年、臨床の場で議論されてきた、「フィブラート系薬剤は本当に腎臓に悪さをするのか?」という疑問に、一つの回答を出した臨床的にインパクトのある研究です。興味深い点として、フィブラート系薬剤で加療を受けた患者は、そうでない患者と比較して、末期腎障害への進展と死亡率は抑制されたにもかかわらず、慢性腎臓病の発症は増加した、という一見相反する結果を認めた点が挙げられます。この乖離の背景や、本研究で主に使用されたフェノフィブラートなどの従来薬ではなく、よりPPAR-alpha作動薬として選択性の高いペマフィブラートが使用された場合ははどうなるのか?など興味はつきません。


田中 仁啓先生

本研究は、大規模かつ長期追跡可能なコホートを用い、フィブラート使用と腎アウトカムおよび死亡との関連を包括的に検討した、学術的完成度の高い観察研究である。new user design や競合リスクモデルを含む解析戦略は適切であり、複数の感度分析を通じて結果の頑健性を丁寧に検証している点は高く評価される。CKD発症、ESKD、死亡という臨床的に重要なアウトカムを同時に扱い、フィブラート治療のリスクとベネフィットを多面的に整理したことは、日常診療における意思決定を考える上で有用な知見を提供している。総じて、本研究は腎臓病学および脂質治療領域における理解を一段深める、意義のある貢献といえる。


金子 直樹先生

フィブラート系薬剤は高トリグリセリド血症に用いられているが、クレアチニン上昇を起こし得て、それが末期腎不全 end stage kidney disease (ESKD) や死亡 mortality とどう関係するかが不明確でした。本研究では、Veterans Affairs の688,382人を対象とした大規模データベースを用い、最大14年追跡の後ろ向きコホート研究として、フィブラートのクレアチニンから計算されるeGFR、ESDKと死亡との関連をCox比例ハザードモデル、propensity score matching、sensitivity analysisを用いて検証しました。フィブラート使用はeGFRを上昇させるものの、ESKD や死亡は少なくなる傾向でした。本研究はフィブラートによるクレアチニン上昇が必ずし腎不全や生命予後の悪化を引き起こしていない可能性を示しており、臨床における腎機能モニタリングの解釈に直結する研究へ発展すると期待します。


1)研究者を目指したきっかけ

大学4年生のとき、「自主学習」という研究室に配属されるプログラムに参加したことがきっかけです。学生でありながら、自分の手でデータを集め、それを考えながら解釈し、次の研究につなげていく過程に触れ、研究の奥深さと面白さに強く惹かれました。この経験から、将来は医師として診療を行いながら、研究にも取り組みたいと考えるようになりました。

その後、実際に患者さんを診療する中で、「目の前の患者さんの経験を、より多くの人の役に立てたい」と考えるようになり、患者さんのデータをもとにした臨床研究に魅力を感じるようになりました。留学先で臨床研究に取り組み、帰国後の現在も大学病院にて臨床研究を継続しています。

また現在は、自身が研究に興味を持つきっかけとなった学生向け研究プロジェクトを担当し、次の世代に研究の魅力を伝えることにも力を入れています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

私の専門は腎臓内科です。腎臓は体の中の不要な老廃物や余分な水分を体の外に出す、とても大切な臓器です。腎臓内科では、その働きが低下してしまった患者さんの診療を行います。

初期研修医のときに腎臓内科を経験し、その専門性の高さや学問としての面白さに魅力を感じました。同時に、腎臓の病気は全身に影響するため、臓器だけでなく患者さん全体の状態や生活背景まで考えて診療することの大切さを学びました。患者さんと長く関わりながら支えていきたいという自分の理想に合っていると感じ、腎臓内科を選びました。

現在は、患者さんのデータをもとにした臨床研究に取り組んでいます。今回の受賞論文では、フィブラートという脂質異常症の治療薬が腎臓や生命予後にどのような影響を与えるかを検討しました。日々の診療の中で感じた疑問を研究として検証し、その結果を多くの患者さんの治療に役立てられる点に、研究の大きな魅力を感じています。

また、腎臓内科は多くの疾患や全身の状態に関わる分野であり、さまざまなテーマで研究に取り組める点も魅力の一つだと考えています。


3)この研究の将来性

フィブラートは、脂質異常症、特に中性脂肪が高い方に使われる治療薬です。しかし、この薬は一時的に腎臓の数値(クレアチニン)が上昇することがあり、これまで使用を控えられることもありました。

本研究では、そのような一時的な変化がみられる一方で、長期的には透析が必要となるリスクを下げ、さらに生命予後を改善する可能性があることを示しました。

今後さらに研究が進むことで、この結果が脂質異常症の治療方針(ガイドライン)に影響を与え、より適切な薬の使い方につながることが期待されます。その結果として、腎臓の機能を長く保ち、患者さんの健康や寿命の改善に役立つ可能性があります。


留学中のサポートやコミュニティについて

留学中は、研究と生活の両立に加え、さまざまな困難に直面する場面もありました。そのような中で、周囲の方々の支えや、同じように海外で挑戦している研究者同士のつながりが大きな支えとなりました。

特に、同じ立場の研究者同士で気軽に相談できるコミュニティや、精神的に支え合える環境の重要性を強く感じました。一方で、所属機関におけるサポート体制や、研究者が安心して研究に専念できる仕組みは、今後さらに充実していく余地があると感じています。

今後は、海外で研究に取り組む若手研究者が、研究面だけでなく生活面や精神面でも安心して過ごせるような支援体制やネットワークの整備が進むことを期待しています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

シングルマザーとして娘と2人で海外に留学した2年間は、決して簡単なものではありませんでした。日々の生活と研究の両立に加え、娘が体調を崩して救急搬送されることもあり、異国の地で不安と向き合う場面も少なくありませんでした。

しかしその一方で、娘がいたからこそ、多くの方々の温かさに支えられ、思いがけない素敵な出会いにも恵まれました。この経験を通じて、私も娘も「どこでもやっていける」「何とかなる」という大きな自信を得ることができました。

長年の夢であった臨床研究留学を実現するために、一歩を踏み出した過去の自分に対して、「留学してよかった」と伝えたい気持ちです。

また、私の夢に付き合い、慣れない環境の中で現地校に通いながら2年間を懸命に過ごした娘の成長を、心から誇りに思うとともに、深く感謝しています。娘と2人だったからこそ、この経験を乗り越えることができました。

もし留学を迷っている方がいらっしゃれば、ぜひ勇気を持ってその一歩を踏み出してみてください。新しい環境に飛び込むことで、これまで見えなかった世界がきっと広がると思います。

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