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[論文賞] 荻野 学芳/産業医科大学

更新日:17 時間前

Noriyoshi Ogino, Ph.D.


[分野:Y-JLS forum(Yale Japanese Life Science Forum) (コネチカット)]


論文リンク


論文タイトル

Neutrophils insert elastase into hepatocytes to regulate calcium signaling in alcohol-associated hepatitis


掲載雑誌名

Journal of Clinical Investigation


論文内容

好中球は細菌などの外敵を排除する“戦闘員”として知られ、その武器である顆粒酵素は感染防御において中心的な役割を果たす。しかし本研究では、好中球が外敵だけでなく宿主の肝細胞に対しても作用するという、これまでに知られていなかった新たな側面を明らかにした。具体的には、顆粒酵素の一つである好中球エラスターゼが肝細胞内に取り込まれ、カルシウムチャネルIP3R2を選択的に分解することで、細胞死を伴わずに肝細胞の増殖機能を一過性に抑制した。この作用機序は、これまで細胞内で自己完結的に行われると考えられてきたオートファジーやプロテアソームなどのタンパク質分解経路に、他細胞由来のプロテアーゼが介入するという、細胞生理学的にも興味深い現象である。さらに、無菌性急性炎症であるアルコール性肝炎において、患者肝組織で好中球エラスターゼの肝細胞内移行とIP3R2分解が確認され、好中球エラスターゼ欠損マウスを用いた解析によって肝細胞増殖シグナルとの関連性が再現された。これらの結果から、好中球エラスターゼは無菌性炎症環境下において肝細胞機能と再生応答を可逆的に制御する新たな分子標的であることが示唆された。


受賞者のコメント

研究に専念できるよう支えてくれた家族、一緒に研究をすすめてくれたラボメンバーや共同研究者の皆さまに感謝申し上げます。


審査員コメント


今田 慎也先生

HepatocyteにおけるNeutrophilを介したITPR2-Calcium制御について、多くの実験データを元に素晴らしい基礎医学の新たな知見が得られたと思います。一方で、Hep2 cell lineがHepatoma由来の細胞であったりと、Translational medicineに繋げていく上で実験モデルモデルの選定は今後重要なポイントになってくるかと思います。


氏家 直人先生

本研究は、アルコール関連肝炎における好中球と肝細胞の相互作用に着目し、好中球由来エラスターゼによるITPR2分解を介したCa²⁺シグナリング障害と肝細胞増殖抑制の分子機序を多面的に明らかにした点で高く評価されます。特に、ヒト肝組織におけるITPR2低下と好中球浸潤との関連、ならびにエラスターゼ欠損や阻害による肝細胞機能回復を示した知見は、炎症環境下における肝細胞機能制御の理解を深める重要な示唆を与えています。本研究成果は、アルコール関連肝炎の病態解明に新たな視座を提供し、関連分野の研究発展に寄与するものと考えられます。


小島 秀信先生

本研究では、アルコール性肝炎において肝内に浸潤する好中球からエラスターゼが肝細胞へ移行し、Caシグナルを減弱させることで肝再生を抑制する機序が、動物モデルおよびヒト検体を用いて示されています。好中球が肝再生に深く関与することは従来より知られており、本研究はその分子メカニズムに新たな視点を加えるものとして大変興味深く拝読致しました。今後は、本研究で得られた知見をどのように実臨床へ応用していくか、さらなる検討と発展が期待されます。


古橋 暁先生

本論文は、好中球と上皮細胞との相互作用において、従来想定されていた炎症性破壊機構に加えて、非破壊的なタンパク質注入という新たな作用機序を明らかにした点で非常に魅力的です。 特に、好中球由来エラスターゼが細胞内カルシウムチャネル(ITPR2)を標的として分解し、肝細胞の増殖に影響を与えるメカニズムは、免疫学・細胞シグナル伝達・肝病態生理学の複数領域を横断するとともに、今後の研究で他の臓器や病態にも応用可能な概念としてインパクトが期待されます。


牧野 祐紀先生

アルコール性肝障害の病態における好中球・エラスターゼの役割を示した大変興味深い内容です。肝細胞に対する好中球エラスターゼの挿入によりITPR2が分解された後に何が起こるのかということ、アルコール性肝障害以外の好中球浸潤性の肝疾患ではどうなのかということについて今後の検討を期待します。


1)研究者を目指したきっかけ

子供のころから、昆虫や魚、植物を観察することが好きでした。生物の不思議な習性や、細かな体の構造に惹かれていたことを覚えています。

 医師となり、診断基準や治療ガイドラインに基づいて患者さんを診療してきました。診断基準や治療ガイドラインは、多くの患者さんのデータの統計解析を基にして作成されており、現代医療に欠かせないものです。一方で、実際に一人ひとりの患者さんを診ていると、同じ病気と診断されても、経過や治療に対する反応が異なる場合が多々ありました。個々人により細分化された診断や治療を行うためには、病態の背景にあるメカニズムを深く学ぶことが必要だと感じるようになり、基礎研究の世界に飛び込みました。

 研究を進める中で、より厳密な方法論と活発な議論のある環境を求めるようになり、留学を志すようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

私は主に肝臓の病気を診る医師だったので、留学先でも肝臓の研究を開始しました。当時、米国のボスの研究課題が、アルコールを日頃から大量に飲む人に突然おこる致死的な重症型アルコール性肝炎の病態解明でした。この病気では、本来細菌を攻撃する役割を持つ好中球が大量に肝臓に入っていくことが知られています。無菌の肝臓で、好中球は一体何をしているのか、というのが本研究の入り口でした。

 研究対象の好中球ですが、細菌を攻撃するための武器をたくさん持っています。それらの一部は、好中球自身のタンパク質や核酸も壊してしまうことから解析が非常に難しく、研究者の数は多くありません。しかしだからこそ泥臭くとも一つ一つ丁寧にみていくことで新たな発見が得られやすいのではないかと感じています。


3)この研究の将来性

今回の論文では、本来細菌を攻撃するための道具である好中球タンパクの好中球エラスターゼ(Neutrophil Elastase, NE)が、実は宿主側の肝細胞にも作用していて、肝細胞の再生に寄与していることを発見しました。重症アルコール性肝炎で起きる肝再生不全に、NEの過剰な作用が関与する可能性があります。NEの作用を抑えるような治療が重症アルコール性肝炎に効くかもしれません。

 重症アルコール性肝炎は致命率30-50%で30-40代の命を奪う病気ですが、いまだに有効な内科的治療薬が確立されていません。肝移植の成績は比較的よいものの、移植可能な肝臓が回ってくる優先順位が低いため(お酒を飲んだ本人の自己責任という考え方がある)、治療開発ニーズがあります。


留学や研究生活にまつわるエピソード

「あるタンパク質の量が減るのは分解されるからだ」という仮説を、ボスに納得してもらうのにだいぶ苦労しました。英語の問題もあったのかもしれません。結局、「NEが分解する」というデータがでて初めて納得してくれました。このとき、過去の大量のネガティブデータがポジティブデータと全く同じ価値を持つことを深く実感できたことが、研究者としての非常に大きな財産になっています。「データは変えられない、仮説を変えるのだ」という言葉を共有したいです。


 家族で2年間半渡米していましたが、皆さんも必ず日本食が恋しくなると思います。

私たちは海釣りに行って釣れた魚を干物にしたり、うどん作りに挑戦したりしました。ふりかけ茶漬けが至高の料理に感じられたのを覚えています。日本で日本食を食べられることは、本当に幸せなことなのだと実感しました。

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