荻野 学芳
- UJA Award
- 21 時間前
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子供のころから、昆虫や魚、植物を観察することが好きでした。生物の不思議な習性や、細かな体の構造に惹かれていたことを覚えています。
医師となり、診断基準や治療ガイドラインに基づいて患者さんを診療してきました。診断基準や治療ガイドラインは、多くの患者さんのデータの統計解析を基にして作成されており、現代医療に欠かせないものです。一方で、実際に一人ひとりの患者さんを診ていると、同じ病気と診断されても、経過や治療に対する反応が異なる場合が多々ありました。個々人により細分化された診断や治療を行うためには、病態の背景にあるメカニズムを深く学ぶことが必要だと感じるようになり、基礎研究の世界に飛び込みました。
研究を進める中で、より厳密な方法論と活発な議論のある環境を求めるようになり、留学を志すようになりました。
私は主に肝臓の病気を診る医師だったので、留学先でも肝臓の研究を開始しました。当時、米国のボスの研究課題が、アルコールを日頃から大量に飲む人に突然おこる致死的な重症型アルコール性肝炎の病態解明でした。この病気では、本来細菌を攻撃する役割を持つ好中球が大量に肝臓に入っていくことが知られています。無菌の肝臓で、好中球は一体何をしているのか、というのが本研究の入り口でした。
研究対象の好中球ですが、細菌を攻撃するための武器をたくさん持っています。それらの一部は、好中球自身のタンパク質や核酸も壊してしまうことから解析が非常に難しく、研究者の数は多くありません。しかしだからこそ泥臭くとも一つ一つ丁寧にみていくことで新たな発見が得られやすいのではないかと感じています。
今回の論文では、本来細菌を攻撃するための道具である好中球タンパクの好中球エラスターゼ(Neutrophil Elastase, NE)が、実は宿主側の肝細胞にも作用していて、肝細胞の再生に寄与していることを発見しました。重症アルコール性肝炎で起きる肝再生不全に、NEの過剰な作用が関与する可能性があります。NEの作用を抑えるような治療が重症アルコール性肝炎に効くかもしれません。
重症アルコール性肝炎は致命率30-50%で30-40代の命を奪う病気ですが、いまだに有効な内科的治療薬が確立されていません。肝移植の成績は比較的よいものの、移植可能な肝臓が回ってくる優先順位が低いため(お酒を飲んだ本人の自己責任という考え方がある)、治療開発ニーズがあります。
「あるタンパク質の量が減るのは分解されるからだ」という仮説を、ボスに納得してもらうのにだいぶ苦労しました。英語の問題もあったのかもしれません。結局、「NEが分解する」というデータがでて初めて納得してくれました。このとき、過去の大量のネガティブデータがポジティブデータと全く同じ価値を持つことを深く実感できたことが、研究者としての非常に大きな財産になっています。「データは変えられない、仮説を変えるのだ」という言葉を共有したいです。
家族で2年間半渡米していましたが、皆さんも必ず日本食が恋しくなると思います。
私たちは海釣りに行って釣れた魚を干物にしたり、うどん作りに挑戦したりしました。ふりかけ茶漬けが至高の料理に感じられたのを覚えています。日本で日本食を食べられることは、本当に幸せなことなのだと実感しました。



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