[論文賞] 今西 市朗/Icahn school of medicine at mount sinai
- UJA Award
- 12 時間前
- 読了時間: 8分
Ichiro Imanishi, Ph.D., D.V.M.
[分野:免疫分野]
論文リンク
論文タイトル
A basophil-fibroblast pro-inflammatory axis fuels type 2 skin inflammation
掲載雑誌名
Cell Reports
論文内容
慢性炎症性皮膚疾患は、皮膚内に常在する細胞と炎症時に侵入してくる免疫細胞との相互作用が破綻することで生じますが、その複雑さのために病態の全体像は十分に理解されていません。本研究では、マウスのⅡ型炎症性皮膚炎モデル(MC903およびオキサゾロン誘導性皮膚炎)を対象に、MERFISHおよび単一細胞RNAシーケンスを組み合わせた約43万細胞規模の時空間アトラスを作成しました。その結果、39種類の細胞群を同定し、その中にヒトアトピー性皮膚炎の線維芽細胞に類似する「炎症促進性線維芽細胞(pro-inflammatory fibroblast)」を見出しました。空間的近接解析により、好塩基球がオンコスタチンM(OSM)とIL-4を放出して線維芽細胞を活性化し、線維芽細胞がさらに免疫細胞を呼び寄せる“フィードフォワード回路”を形成していることを明らかにしました。線維芽細胞特異的にIL-4受容体αを欠損させると炎症が抑制され、さらにOSM受容体の構成要素gp130を薬理学的に阻害すると相乗的に炎症が軽減しました。これらの結果は、好塩基球と線維芽細胞の相互作用がⅡ型皮膚炎の中心的な制御機構であることを示し、線維芽細胞を新たな免疫調節因子および治療標的として位置づけるものです。
受賞者のコメント
このたびは、このような賞をいただきありがとうございます。アメリカでポスドクとして研究を続ける中で、自分の研究が日本の研究者コミュニティの中でどのように受け止められているのかを実感する機会は限られていましたが、今回このような形で評価していただけたことで、一つの形として受け取っていただけたことを率直にうれしく思います。共著者の先生方、共同研究者の皆さま、そして研究を支えてくださった方々に心より感謝申し上げます。
審査員コメント
小笠原 徳子先生
本研究は、2型皮膚炎症(アトピー性皮膚炎を代表とする)における免疫細胞と線維芽細胞の空間的・機能的相互作用を、単一細胞解析および空間トランスクリプトミクスの統合解析によって包括的に解明したものです。著者らは、MC903誘導性皮膚炎およびオキサゾロン(OXA)誘導性皮膚炎という2種類のマウスモデルを用い、scRNA-seq と MERFISH を組み合わせて2型皮膚炎症の時空間アトラスを構築しました。解析の結果、pro-inflammatory fibroblasts と免疫細胞(好塩基球)が空間的に強く結びついていることが示されました。これは、pro-inflammatory fibroblasts が治療標的となり得る可能性を示す新しい知見です。2型炎症性疾患では、主要サイトカイン(IL-4, IL-13)の検出感度や eosinophil の含有RNA量が少ないことなど、技術的な困難が多く存在しますが、これらの制約を踏まえても、これまで免疫細胞中心であった2型炎症の理解を免疫-間質相互作用モデルへと拡張した点は大きな強みであると感じました。今後、ヒト臨床検体での追加検証や、蕁麻疹など他の疾患への拡張が期待されます。
神尾 敬子先生
本研究は、MERFISH を用いた空間トランスクリプトミクスと scRNA-seq を統合した解析により、2型皮膚炎症における免疫-間質相互作用の理解を飛躍的に進展させ、線維芽細胞を動的な免疫調節因子として再定義した画期的な成果です。既存の IL-4/13 阻害に部分反応を示す患者群に対する新たな治療戦略として OSM–gp130 経路の阻害を提案しており、本知見の臨床応用可能性は極めて高いと評価されます。
森田 英明先生
炎症における細胞の局在、相互作用、時間変化を可視化し、好塩基球-線維芽細胞という新規軸を明らかにした先進的な研究です。IL-4とOSMの同時阻害など具体的な治療戦略も提示しており、今後の発展性が期待されます。
1)研究者を目指したきっかけ
高校生の頃、マウスやブタを使って耳介を作製し、それを人に応用しようとする研究や、iPS細胞の話題に触れたことが、研究に興味を持つ最初のきっかけでした。生き物の体の仕組みを理解し、その知識を医療につなげていくことに強く惹かれたのを覚えています。
もともと私は、生命に関わる仕事がしたいという思いを持っていました。その中で獣医学を選んだのは、動物の医療が人の医療とも深くつながっている一方で、まだ解明されていないことが多く、自分の興味や情熱を強く向けられる分野だと感じたからです。
博士課程に入った当初は、将来は臨床の獣医師として皮膚科の専門医になるつもりでした。しかし研究を進めるうちに、病気の基本的な仕組みそのものがまだ十分に分かっておらず、どの薬がなぜ効くのかもはっきりしていない場面が多いことを実感しました。目の前の一頭を助ける臨床も非常に大切ですが、病気の仕組みを明らかにする研究が進めば、その先でより多くの動物や人の医療に役立てることができます。
そう考えるようになってから、私は臨床だけでなく、病気の根本にある仕組みを解き明かす研究そのものを仕事にしたいと思うようになりました。まだ誰も十分に分かっていないことに向き合い、それを少しずつ明らかにして医療につなげていくことに、今も大きなやりがいを感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
現在私は、炎症性皮膚疾患における線維芽細胞の役割を中心に研究しています。研究を始めた当初は、ブドウ球菌による皮膚感染症などを、主に microbiology の観点から研究していました。しかし慢性炎症を考える中で、病原体が常に病気を主導しているわけではなく、宿主側に炎症を維持しやすい状態ができていること自体が問題なのではないかと感じるようになりました。
そこから、病気の土台をつくる側の細胞に関心が移り、特に線維芽細胞に注目するようになりました。線維芽細胞は皮膚の中に長く存在する細胞で、炎症の影響を長期間保ち、次の炎症を起こしやすい“土壌”をつくっている可能性があります。私は、こうした組織側の記憶のような仕組みに強く惹かれています。
この機序が明らかになれば、アトピー性皮膚炎のような慢性炎症だけでなく、炎症が長く続くことで起こるさまざまな病気や、腫瘍形成の理解にもつながる可能性があります。組織の中に長く残る変化に注目することで、病気を新しい視点から理解できるところに、この研究分野の大きな魅力を感じています。
3)この研究の将来性
私の研究が将来役立つ可能性は、慢性炎症の治し方を変えることにあると考えています。これまで炎症の研究では免疫細胞が中心に考えられることが多くありましたが、私は、皮膚の中に長く存在する線維芽細胞が、炎症を起こしやすい状態そのものを支えているのではないかと考えています。もしこの仕組みが明らかになれば、アトピー性皮膚炎のような病気に対して、炎症を一時的に抑えるだけでなく、病気が長引いたり再燃したりする土台そのものに働きかける新しい治療につながる可能性があります。
また、慢性炎症は皮膚だけの問題ではなく、多くの病気に共通する重要な現象です。線維芽細胞が炎症の“記憶”のようなものを保ち、次の炎症を起こしやすくするのだとすれば、その理解は他の臓器の慢性炎症や、炎症が長く続くことで起こる組織の異常、さらには腫瘍形成の理解にも広がっていく可能性があります。
私は、病気を引き起こしている目立つ細胞だけでなく、その背景で長く病気を支えている細胞に注目することが、将来の医療を前に進めるうえで重要だと考えています。この研究が、慢性炎症をより根本から理解し、治療するための新しい考え方につながればうれしく思います。
留学中のサポートやコミュニティについて
留学生活の中で感じたのは、研究そのものだけでなく、生活面や将来への不安も含めて支え合えるコミュニティの大切さです。留学当初は、英語で議論すること自体にかなり苦労しました。自分の考えていることをその場で十分に伝えられなかったり、実験の意味や解釈をうまく共有できなかったりして、研究内容以前のところで強い負担を感じる時期がありました。そうした中で、同じように海外で研究している日本人研究者の存在や、学会などで気軽に話せるつながりは、精神的にも実務的にも助けになりました。
また、留学生活では研究だけでなく、住居、保険、子育て、家族の生活など、日々の基盤を整えることも大きな課題になります。こうした部分は、研究者本人だけでなく家族にも負担がかかるため、研究支援と生活支援を切り離さずに考えることが大切だと感じています。
今後あれば良いと思う支援は、研究費や表彰だけでなく、留学初期の生活立ち上げ、キャリア相談、家族帯同に関する情報共有、そして少し先を歩いている研究者の方と気軽に話せる仕組みです。留学中は、ちょっとした実体験に基づく助言が非常に大きな支えになることがあります。研究面だけでなく、生活や将来設計まで含めて相談できる緩やかなコミュニティが増えると、とても心強いと思います。
留学や研究生活にまつわるエピソード
留学して最初に強く感じたのは、英語で議論することの難しさでした。自分の考えていることをその場でうまく言えなかったり、実験の意味や解釈を十分に伝えられなかったりして、かなり苦労しました。研究そのものに集中したくても、まずはそれを正確に伝えることに大きなエネルギーが必要だった時期があったと思います。
ただ、留学生活を続ける中で、そうしたストレスは少しずつ減っていきました。その一方で、今度は周囲の優秀な研究者たちが、とても自然に活発な議論を重ね、新しい視点を取り入れながら研究を深めていることに気づくようになりました。そうした環境に身を置けたことは、自分にとって大きな刺激だったと思います。
また、この論文を出す前は、学会に参加しても「参加して終わる」という感覚に近かったのですが、論文を投稿してからは、さまざまなPIの先生方と直接話す機会が増えました。今後のキャリアや、科学者として何を成し遂げたいのかを聞かれることもあり、それに伴って自分自身も、研究にどう向き合っていくかをより意識するようになりました。
留学してみて感じるのは、新しい環境は、自分の弱さを教えてくれるだけでなく、まだ見えていなかった可能性にも気づかせてくれるということです。簡単なことばかりではありませんが、とても意味のある経験だと思っています。



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