[論文賞] 宍倉 匡祐/University of Pennsylvania
- UJA Award
- 3 時間前
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Kyosuke Shishikura, Ph.D., M.D.
[分野:がん分野]
論文リンク
論文タイトル
Hydralazine inhibits cysteamine dioxygenase to treat preeclampsia and senesce glioblastoma
掲載雑誌名
Science Advances
論文内容
「化合物合成→表現型解析」を経る偶然性に依存した昭和の創薬は、「標的選定→化合物合成」を前提とする現代創薬に対して非効率なものの、現代の薬理・生物学的知見をもってしても理解しえない“標的・メカニズム不明”な薬を生み出しました。これらの薬の分子標的を同定することは、薬理学的な新規性があるのみならず、1. 既存適応疾患における新たな創薬標的の発見、2. 標的を頼りにした別疾患への適用 (drug repurposing)を可能にするなど大きな波及効果があります。私は留学先が開発した、酵素の活性部位をとらえ小分子の標的同定を行う技術reverse-polarity activity-based protein profiling (RP-ABPP)をもちいることで、70年間使用され続けている世界最古の降圧薬ヒドララジンの標的・メカニズム解明を行いました。これにより、ヒドララジンは酵素2-aminoethanethiol dioxygenase (ADO)の共有結合的かつ選択的阻害剤であること、本阻害はADOが分解するタンパク質基質(regulator of G protein signaling: RGS)の劇的な上昇により、全く新しいメカニズムで血管拡張を行うことを示しました。またその標的・メカニズムを頼りに、その薬がglioblastomaへ有効であることを示し、drug repurposingを行える可能性を示しました。
受賞者のコメント
この度はUJA論文賞を賜り、誠にありがとうございます。歴史ある薬の新たな可能性を示すことができた本研究は、共同研究者の皆様のお力添えなくしては成し得ませんでした。深く感謝申し上げます。また、本研究を高く評価してくださった審査員の先生方、UJA論文賞運営の皆様に厚く御礼申し上げます。
審査員コメント
牛島 健太郎先生
本研究では、旧来から使用されてきたヒドララジンの作用機序を解明し、2-アミノエタンチオールジオキシゲナーゼ(ADO)という新規治療標的を同定しています。ケモプロテオミクスと構造生物学を統合した多角的アプローチにより、ADO阻害がRGS4/5安定化を通じてカルシウム動態を制御する分子経路を明らかにしています。
特に、子癇前症治療薬としての機序解明に加え、膠芽腫という全く異なる疾患への新規治療戦略を提示された点は高く評価される成果です。開発しプローブは今後のADO研究の貴重なツールとなり、血液脳関門透過性を改善することで次世代の医薬品開発の道が開かれたと思います。
渡邉 潤先生
70年以上機序不明ながら子癇、妊娠高血圧症に対して使用されていたヒドララジン(HYZ)の真の分子標的がADO(2-aminoethanethiol dioxygenase)であることを初めて同定し、分子〜疾患レベルまで最新のプロテオミクス、結晶構造解析を通して解明した論文です。さらに難治性脳腫瘍である膠芽腫に対しても老化を誘導する薬剤として効果的であることを示しており、血液脳関門の問題を改善した薬剤の臨床応用が期待されます。
平田 英周先生
妊娠高血圧の治療などに用いられるヒドララジンの標的分子がADOであることを同定し、その血管拡張作用の分子機構を明らかにした論文です。またヒドララジンによるADO阻害がグリオーマ細胞老化を誘導することも示されており、ドラッグリポジショニングの観点からも意義深い研究成果です。
中根 啓太先生
この研究では、長年、高血圧治療に用いられてきた血管拡張薬Hydralazine (HYZ)の作用機序は長年未解明でしたが、この研究によりHYZは2-aminoethanethiol dioxygenase (ADO)が標的タンパク質であり、HYZの詳細な作用機序を多角的な観点から明らかにしています。さらに、HYZ処理によるADOの阻害が神経膠芽腫細胞の老化を誘導するという新たな治療法の可能性を示しています。この研究において筆者は、化学プローブのデザイン、ケミカルバイオロジー的アプローチ、生化学、構造解析、動物実験といった多角的な実験を責任著者として行っています。この研究はHYZやADOの科学を拡張する重要な知見になり、特に神経膠芽腫に対するHYZの新たな治療法(薬剤リパーパシング)の可能性が期待されます。
兼重 篤謹先生
市販薬でメカニズムが不明なものが多くあり、そのメカニズム解明は非常に興味深い。本研究は妊娠高血圧症などに効果があるとされる Hydralazine (HYZ) のメカニズム解明に貢献する研究である。本研究ではケモプロテオミクスとその下流の検証を行い、標的タンパク質を発見している。標的タンパク質とHYZの共結晶を得ており、構造的な知見を得ているのも興味深い。さらに、標的タンパク質の機能から、膠芽腫細胞への抑制効果を検証しており、メカニズム解明からドラッグ・リポジショニングへの展開も本研究の非常に有用な部分である。
1)研究者を目指したきっかけ
研究は人生の一部である以上、自身の意思だけでは続けることはできず、周囲のサポートなしでは成り立ちません。
自分について深く考えたときに、自身の能力や可能性を最も活かせるのは研究だと信じていたので、高校生以前から研究者を志していました。しかし当初は、家族を含め周囲に応援してくれる人は一人もいませんでした。将来が不安定な職業であるがゆえに、周囲が心配し、理解が得られないのは当然のことだったと思います。
そのような状況の中、東北大学医学部の学部生時代に堀内久徳先生のご指導のもと、好中球neutrophil extracellular traps (NETs)の生理的な制御因子を初めて同定し、薬理学のトップジャーナルである『British Journal of Pharmacology』に筆頭著者として論文を発表することができました。
この実績を機に、周囲の人々が私の夢に賛同し、共に夢に懸けてくれるようになりました。今思い返せば、周囲の理解とサポートを得られたあの瞬間こそが、本当の意味で研究者としての道を歩み始めた「きっかけ」だったと感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
博士課程までは小分子代謝物の生理的意義について研究してきましたが、「代謝物」を主軸に置くと、それがどの分子と相互作用して機能を発揮するのかを探るアプローチが非常に限定され、分子メカニズムの解明が困難になるという壁に直面しました。これは、実験系が確立されているタンパク質や核酸の分野と比べると大きな課題です。また、酵素と予測されるタンパク質のうち、基質や生成物が未だ同定されていないものは半数にのぼり、ヒトゲノム解読から20年以上が経過した現在でも、新規酵素の発見がトップジャーナルを飾っています。
私は現在、ポスドクとして「1. 酵素の活性部位を捉え発見し、2. 小分子の標的を同定する技術」であるreverse-polarity activity-based protein profiling (RP-ABPP) を学んでおり、この技術が代謝分野のボトルネックを打破できると信じています。 医学部を卒業後に現在の化学(Chemistry)分野へ飛び込むことは大きな挑戦であり、多くの苦労もありました。しかし、今回の受賞対象となった研究成果で示せたように、分野が抱える大きな課題の一つを解決へと導くことができ、大変嬉しく思っています。
3)この研究の将来性
ヒドララジンは70年以上にわたり使用され、特に妊娠高血圧腎症(Preeclampsia)において最も有効な治療薬の一つです。本疾患では、ヒドララジンの選択的標的である酵素ADOの基質タンパク質(RGS)が特徴的に低下しています。本研究により「なぜヒドララジンが特効薬として働くのか」という長年の謎が解明され、臨床現場において作用機序に基づくより的確な治療判断が可能になります。
さらに本研究は、未来の創薬に向けて複数の波及効果をもたらします。1つ目は、酵素ADO自体が新たな降圧薬の有望な標的となり得ること。2つ目は、標的への選択性や阻害メカニズムを「化学レベル」で解明したことで、ヒドララジンを改良した次世代の新薬を論理的にデザイン・開発できるようになったことです。そして3つ目は、全く異なる疾患である膠芽腫に対してADO阻害剤が有効であることを示し、ドラッグリポジショニングの新たな可能性を提示できた点です。
留学中のサポートやコミュニティについて
留学先の地域にある日本人コミュニティは、生活の立ち上げやビザ、実験に関する情報交換など、本来一人でゼロから抱え込むべき苦労を軽減してくれる非常に重要なインフラです。 私は今年から「フィラデルフィア日本人勉強会」の運営を引き継ぎ、月一回の勉強会・懇親会の開催、風通しの良いSlackコミュニティの形成、限定情報の発信、SNSやHPの運営などに尽力しています。しかし現在、1. 当地への新規留学者の減少、2. 新規留学者のコミュニティ離れ、3. 既存メンバーの帰国という要因が重なり、年々運営が困難になっています。 私自身がいつまでフィラデルフィアに滞在できるかは未定ですが、このままでは私がこの地を去るタイミングで、コミュニティ自体が終了せざるを得ない見通しです。UJAの皆様は広範なネットワークの運営に成功されております。フィラデルフィアの貴重な場を次世代に残すため、UJAの持つ運営ノウハウの共有や、活用可能なリソース、ご支援を賜れないかと切に願っております。
留学や研究生活にまつわるエピソード
コロナ禍の混乱がまだ残る時期に留学を開始し渡米した際のことです。空港までラボのポスドク2人が車で迎えに来てくれたのですが、彼らはマスク姿で、なぜか両手に大きなスプレーボトルを握りしめて登場しました。そして挨拶もそこそこに、私の荷物と全身を70%エタノールで「消毒漬け」にしてから車に乗せてくれました。「最高の留学先に来たな!」とおもいました。



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