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[論文賞] 小丸 陽平/東京大学

Yohei Komaru, Ph.D., M.D.


[分野:ワシントン大学セントルイス校研究者ネットワーク (ミズーリ)]


論文リンク


論文タイトル

Acute kidney injury triggers hypoxemia by lung intravascular neutrophil retention that reduces capillary blood flow


掲載雑誌名

The Journal of Clinical Investigation


論文内容

急性腎障害(AKI)は、集中治療室(ICU)の入院患者の実に40~60%に発生し、死亡率と有意に関連することが知られています。特にAKIに呼吸不全(低酸素血症)が合併すると、生命予後が非常に悪くなりますが、AKI自体やAKI後呼吸不全に対する特異的な治療法は現在のところ皆無です。

本研究では、シングルセル解析による分子レベルでの仮説形成に始まり、in vivo系の二光子顕微鏡や遺伝子改変マウスといった各手法を駆使して、AKIが引き起こす低酸素血症の発症メカニズムに迫りました。結果として、AKI後に肺毛細血管内での好中球滞留(”Neutrophil train”)が血流を阻害し、換気血流不均衡を引き起こすことが報告されました。二光子顕微鏡画像とマウスモデルによる各種の阻害実験では、AKI発症直後からCCR2陽性の単球が放出するCXCL2によって好中球が血管内に行列をなし、肺の微小循環系において「交通渋滞」を引き起こす現象が鮮明に捉えられています。

今回の報告は、肺胞機能が正常にもかかわらずAKI後に低酸素血症が生じるという、ICUでの臨床的な疑問に答えるものです。AKI後の免疫細胞の炎症性変化、特に単球-好中球間の相互作用を標的とした新しい治療戦略の可能性を提示した点でも、臨床応用を期待させる極めて重要性が高い報告と、複数の国際誌のCommentaryで高く評価されています。


受賞者のコメント

この度は、2026年UJA論文賞(Outstanding Paper Award)を受賞することができ、大変うれしく思います。渡米してから3年半、本賞を過去に受賞された先輩諸氏の仕事を知るにつけ、留学中の一つの目標として研究活動に従事してきました。今回の受賞でさらに多くの研究者の方と繋がり、今後の研究活動に生かしてまいりたいと存じます。


審査員コメント


神尾 敬子先生

本研究は、AKI関連呼吸不全の病態理解を大きく前進させ、透析では改善しない低酸素血症の機序を説明する新たなパラダイムを提示しました。肺毛細血管内で形成される**好中球トレイン(neutrophil train)**に着目し、その検出・予防・解除という新たな治療標的の可能性を示唆しており、臨床的意義が極めて高いと評価されます。今後、ヒトでの検証や治療介入研究への展開が大いに期待されます。


辻 正樹先生

急性腎障害(AKI)が、肺胞や間質浮腫を伴わないにもかかわらず低酸素血症を引き起こす機序を解明した研究である。AKI後に好中球が肺毛細血管内に滞留し「neutrophil train」を形成することで毛細血管血流が低下し、換気血流不均衡を介して低酸素血症が生じることを、intravital imaging、scRNA-seq、機能解析を用いて包括的に示した。さらに、CCR2陽性古典的単球由来CXCL2がこの現象を制御することを明らかにした。AKI関連呼吸不全の病態解明、治療探索につながる研究である。


渡辺 知志先生

急性腎障害(AKI)によって生じる肺傷害の病態形成機序に焦点を当てた研究です。AKI後の肺において好中球が血管内に保持される機序として、活性化された古典的単球由来CXCL2の関与を明らかにしています。炎症細胞標識、シングルセルRNAシークエンス、二光子顕微鏡を組み合わせることで、好中球の動態と機能を精緻に解析している点が秀逸です。今後の病態理解や新規治療標的の探索に発展する可能性があり、有意義な研究と考えられます。


1)研究者を目指したきっかけ

医師として多様な重症患者に接する中で、まだまだ分からないことがたくさんある現実に接し、臨床医の視点から生まれる疑問を研究のシーズ(種)として生かすことができるのではないかと思ったからです。


2)現在の専門分野に進んだ理由

十数年前、研修医をしている頃から、救急やICUといった、緊急度や重症度が高い症例の診療にやりがいを感じていました。この分野で多くの良い(面白い)上司に恵まれた側面もあります。その中で、人工呼吸器やエクモ(ECMO)、人工透析、といった各臓器の代替手法は発達してきているにも関わらず、命を救えない方の多くは複数の臓器不全が同時に進行して最期を迎えることを実感していました。中でも、急性腎障害は特異的な治療薬(”特効薬”)が現在でも存在しません。老廃物の処理や体液量管理といった全身のホメオスタシスを担う腎臓をよく知ることは、全身を診る医師として外せない分野だと思いましたし、腎障害が関連する多臓器不全の解明は最終的には患者さんの予後改善にも寄与しうると考えました。


3)この研究の将来性

歴史的にも各臓器別の病態生理の研究は進んでいますが、臓器間の相互作用(臓器連関)は研究対象となってまだ比較的日が浅い分野です。今回のプロジェクトで、急性に腎障害が進んだ状態において、血管内を中心に免疫細胞が活性化され、肺では呼吸不全に繋がるような遠隔臓器障害が惹起されている可能性が示唆されました。重症の腎障害がある患者さんにおいて、活性化された免疫細胞やサイトカインの制御が多臓器不全の進行を食い止めるための治療介入の選択肢となる可能性があります。


留学や研究生活にまつわるエピソード

シングルセル解析、二光子顕微鏡など、日本では全く経験のない実験手法を数多く試すこととなりましたが、教えを請えば丁寧に教えてくれる人やコラボレーション先が、(職位によらず)存在するのが米国の研究大学の特長に思えました。渡米前の準備や事前の調整にこだわりすぎず、直感に従ってタイミングを逃さずに飛び込むのが留学の秘訣かもしれません。円安や現地の治安・医療事情など、多くのピンチも経験しましたが、地元の方、他の国から志あって来た方、在米日本人など、多くの人に勇気づけられ、助けられました。

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