[論文賞] 山口 浩毅/University of Virginia
- UJA Award
- 17 時間前
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Hiroki Yamaguchi, Ph.D., M.D.
[分野:トランスレーショナル研究・臨床医学・公衆衛生]
論文リンク
論文タイトル
Calcium Oscillations Within Juxtaglomerular Cell Clusters Control Renin Release
掲載雑誌名
Circulation Research
論文内容
レニンは血圧・体液恒常性を担うレニン・アンジオテンシン(RAS)系の起点で、腎臓の僅か0.01%を占める傍糸球体(JG)細胞が産生する。JG細胞において細胞内カルシウム(Ca)は生理刺激を統合するハブとして機能し、その上昇によりレニンの分泌が抑制されるという逆説的な応答が知られるが、腎皮質深部への局在や細胞単離後の脱分化等の技術的障壁があり、その細胞内Ca動態の実体は長らく不明であった。本研究ではJG細胞特異的Caインジケータ発現マウスを用い、急性腎切片と生体内腎でJG細胞における細胞内Ca動態を可視化した。摘出腎解析では、RAS系主要因子のAng IIが、腎間質の生理濃度でJG細胞に強固なCa振動と細胞間伝播を惹起し、その振動頻度がレニン分泌と逆相関することを見出した。阻害実験から、このCa振動は小胞体IP3受容体、細胞膜ORAIチャネル、および細胞間ギャップ結合によるシグナル回路により駆動されることを突き止めた。生体内観察でも、無処置腎で同様の強固なCa振動を検出し、これがAng II受容体阻害にて消失したことから、生体の基礎状態においてもAng II依存性Ca振動がJG細胞において恒常的に維持されていることが明らかとなった。JG細胞のCaシグナル基盤を解明した本成果は、血圧調節の根幹をなすレニン分泌制御のブラックボックスを解き明かし、RAS系を標的とした高血圧症や慢性腎臓病治療の最適化に向けた重要な科学的基盤を提供する。
受賞者のコメント
このような貴重な機会を頂けたことに、感謝申し上げます。
審査員コメント
楠 加奈子先生
Juxtaglomerular (JG) 細胞クラスター内のカルシウム振動がレニン放出を制御するメカニズムを、ex vivo/in vivoの両モデルで精密に解明した優れた基礎的研究論文です。ネイティブな腎臓組織構造内での直接イメージングにより、協調的な多細胞シグナリングを実証しています。ORAI (ストア操作型カルシウムチャネル) とgap junctionを介したアンギオテンシンII誘発性カルシウム振動がレニン分泌を制御することを明らかにしました。著者らは、JG細胞内のカルシウム動態メカニズム理解が、心血管・腎疾患の新規かつより安全な治療開発につながる可能性を指摘しており、基礎研究から臨床応用への重要な足がかりとなると考えます。方法論の革新性と学術的新規性において極めて卓越している論文と思います。
古荘 泰佑先生
本論文では腎の傍糸球体細胞のカルシウムシグナルを可視化することで、アンギオテンシンIIがレニン産生を抑制するメカニズムが詳細に検討されています。高度な動物実験手技、イメージング、解析技術が駆使され、種々の阻害薬によって必要な分子が丁寧に同定されています。カルシウムシグナルがgap junctionを介して細胞間を伝播していく現象はvivoでリアルタイムに観察することで初めて確認できるもので、本研究で確立されたimaging技術は今後も応用が期待されます。
小豆島 健護先生
本論文は、アンジオテンシンII(Ang II)によるレニン分泌制御の詳細を、最新のイメージング技術により可視化し解明しました。これまで、培養細胞実験レベルでは、Ang II刺激時に傍糸球体細胞の細胞内カルシウム濃度が上昇しレニンの分泌が抑制されることは報告されていましたが、一般的に内分泌細胞では細胞内カルシウム濃度の上昇はホルモン分泌を促進すること、また生体内でのエビデンスがないことから、懐疑的な意見も多い状況でした。筆頭著者らは、傍糸球体細胞特異的にカルシウムセンサーを発現するマウスを開発し、生体内でAng II刺激時に傍糸球体細胞内のカルシウム濃度が上昇しレニン分泌が抑制されることを証明しました。また、Ang II刺激時のレニン分泌制御のメカニズムとして、傍糸球体細胞がクラスターとして同期し、小胞体およびORAIチャネルを介した周期的なカルシウム濃度の増減(振動)を生み出すことが重要であることを見出しています。本研究は、これまでの傍糸球体細胞におけるレニン分泌制御に関する論争に終止符を打つ、大変意義深い内容と考えます。
佐藤 有紀先生
本論文では腎臓の傍糸球体細胞クラスターにおけるカルシウム振動とレニン分泌の関係性をex vivo及びin vivoでリアルタイムに観察し、Ang2投与によりCaスパイクが発生しそれがレニン分泌を抑制することを実証し、新たなレニン分泌の制御機構を同定した多角的な検証に基づく大変優れた研究成果である。この知見を端緒とした更なる高血圧の病態解明および治療の発展を期待したい。
菊池 寛昭先生
JG細胞クラスターが自発的かつ協調的なCaのオシレーションを示すことをvivoで検証した非常に完成度の高い論文と考えます。レニンの分泌制御は高血圧治療の現場では非常に重要な観点です。ORAIをターゲットとした新規高血圧治療にもつなげられる可能性も示唆され、レニン制御の質を明らかにしたという観点で、今後の研究の基盤論文になる事が期待されます。
1)研究者を目指したきっかけ
血管疾患や腎不全を未然に防ぐ側に立つ内科医を目指し、高血圧や糖尿病を専門とする腎臓内科医を専攻しました。当初は基礎研究そのものに強い関心を抱いていたわけではなく、内科医としての臨床の幅を広げ、多角的な視点を養うための研鑽の一環と考えておりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
腎臓内科医として新潟県内の関連病院や大学院での研鑽を経て、病態メカニズムの奥深さに触れる中で、血圧調節の中枢であるレニン細胞研究を牽引する第一人者のもとで学ぶ機会をいただきました。この幸運な縁をきっかけに、基礎研究留学という道へ踏み出すに至りました。
3)この研究の将来性
血圧・体液恒常性を担うレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系は、高血圧や腎臓病、心臓病治療における不動の主役です。この系に新たな制御機構を見出す基礎研究は、単なる血圧管理を超え、臓器そのものを直接守り抜く次世代の治療基盤となります。将来的には、脳卒中や心不全、透析といった重大な病気を未然に防ぎ、健康寿命の延伸と社会保障費の抑制という多大な貢献をもたらす可能性を秘めています。



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