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[論文賞] 嶋中 雄太/東京大学

Yuta Shimanaka, Ph.D.


[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]


論文リンク


論文タイトル

Dietary control of peripheral adipose storage capacity through membrane lipid remodelling


掲載雑誌名

Nature Metabolism


論文内容

白色脂肪組織(WAT)は高い拡張能力を持ち、余剰エネルギーをトリグリセリド(TG)として脂肪滴に蓄え、脂質の異所性蓄積による脂肪肝やインスリン抵抗性の発症を防ぐ。即ちWATの拡張能制御は健康に重要である。一方、食事の西洋化に伴うω6脂肪酸摂取量の増加は、肥満率上昇と相関すると報告されてきたが、その分子機構は不明である。食事由来の脂肪酸は生体膜リン脂質にも多く取り込まれるため、我々はω6脂肪酸を選択的にリン脂質へ導入する酵素LPCAT3に着目し、脂肪組織特異的LPCAT3欠損マウス(AKO)を作成した。AKOのWATではω6含有リン脂質が著減したが、通常食で異常がなかった。しかし超高脂肪食負荷下ではWATの拡張が障害され、脂肪肝とインスリン抵抗性を伴う部分性脂肪萎縮症を呈した。さらに、食餌中のω6脂肪酸をω3または飽和脂肪酸に置換したω6脂肪酸欠乏超高脂肪食を作成し、野生型マウスに与えても同様の表現型を示し、膜リン脂質中のω6脂肪酸がWAT拡張に必須であることを明らかにした。さらにAKOのWATではTG分解が亢進すること、分子動力学シュミレーションからω6脂肪酸であるアラキドン酸含有リン脂質が脂肪滴形成部に集積し、脂肪滴形成を安定化させることを示した。以上、脂肪酸組成を操作した超高脂肪食とLPCAT3 KOマウスとを組み合わせることでω6脂肪酸含有リン脂質特有の機能を明らかにした。


受賞者のコメント

この度はこのような素晴らしい賞をいただき、大変光栄です。5年間の留学生活の成果の一つを評価していただいたことに大きな喜びを感じています。これからもリン脂質研究分野をより深められるように頑張ります。


審査員コメント


井上 晋一先生

LPCAT3 (lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)の生理学的意義を明らかにした素晴らしい論文です。リピドーム解析、RNA-seq、single-muclei-RNA-seqなどのマルチオミクス解析技術を初め、脂肪細胞特異的LPCAT3ノックアウトマウスに様々な脂肪酸組成の高脂肪食を与え、白色脂肪細胞のplasticityを明らかにしていく最初のアプローチは大変面白いです。また褐色脂肪組織特異的なLPCAT3ノックアウトマウス作製やUcp1とのダブルノックアウトマウスを作製し組織間の表現型への寄与度を評価、LPCAT3阻害剤、酵素活性に影響を与えるLPCAT3ノックインマウスなどを用いたメカニズム解析までの膨大な仕事が本論文に含まれます。最後に、脂肪滴の形成にどのような役割を持つのか明らかにすることで締めくくる流れるような論文構成は大変勉強になる見事な仕事です。本知見は肥満・2型糖尿病の病態理解にも繋がるため今後のさらなる研究成果が待ち遠しいです。


安部 一太郎先生

食事由来脂肪酸と脂肪組織の貯蔵能を結びつける分子基盤として,PPARγ–LPCAT3軸を提示したインパクトの大きい研究です。脂肪組織の可塑性という概念を膜脂質リモデリングの観点から再定義しており,代謝研究・栄養学の双方に広く貢献する論文です。


江島 弘晃先生

脂肪細胞におけるLPCAT3の役割を解明した新規性の高い研究成果である。当該分野におけるインパクトも非常に高く、今後の研究の発展性が大いに期待できる。


井上 己音先生

食べた油の質により、脂肪滴のサイズ・安定性、将来の"病気"のリスクにも影響するという、「You are what you eat」を科学で実証したような素晴らしい論文です。炎症を助長するとされがちなオメガ6脂肪酸が、実は適切に皮下脂肪を溜めて、全身の代謝を守る(Metabolically Healthy Obesity)ために不可欠であるという、重要な示唆に富む論文です。そんな「食べたもの」と体内での遺伝子発現を繋ぐメカニズムとしてPPARγ-LPCAT3を同定されています。


1)研究者を目指したきっかけ

小さい時から昆虫、特に蝶が好きでよく採集・観察していました。その中で、幼虫が綺麗な成虫へと劇的な変態を遂げることや、同じ種類でも季節や地域によって模様が変わることに惹かれ、こうした生命の神秘を解き明かす仕事につきたいと思ったのがきっかけです。今は脂質の研究をしていますが、多彩なリン脂質種を追い求めることに、蝶コレクター精神が活きています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

私が探求するテーマは、生体内に10万種以上存在すると言われるリン脂質の多様性の謎です。リン脂質はバクテリアからヒトまであらゆる生物の生体膜を形作る土台であるだけでなく、膜の物性や膜タンパク質の構造・活性の制御、そしてシグナル伝達の起点にもなります。さらに、熱刺激や食事などの環境ストレスによってもその組成を劇的に変えるため、興味が尽きません。


3)この研究の将来性

今回私たちは、サラダ油など西洋型の食事に多く含まれるオメガ6脂肪酸が脂肪細胞の膜リン脂質に取り込まれることで、白色脂肪組織の拡張能力維持に大事であることを見つけました。食事からオメガ6脂肪酸を減らすと、白色脂肪組織が萎縮し体重が減りますが、本来脂肪組織が蓄えるべき中性脂肪が漏れ出て肝臓などに蓄積し、インスリン抵抗性を発症してしまいます。すなわち適切なオメガ6脂肪酸の摂取が健全な白色脂肪細胞の能力維持に必要であり、食事中の脂質の質を変えることで健康が改善されうることを示しました。


留学や研究生活にまつわるエピソード

私の留学期間(2019-2024)はちょうどパンデミックと重なり、毎日が非日常の連続でした。初めはかなり不安でしたが、現地で多くの人の助けによって楽しく過ごすことができました。留学は新しい環境で心機一転、研究に集中できるだけでなく、世界各国から来た研究者と仕事を超えた友人になれるチャンスです。本成果も、留学先での良き同僚かつ現在の親友であるMarcとともに二人三脚で挑んだ結果です。帰国した今でも彼らとは連絡を取り合い、国際学会や日本国内で再会したりと関係が続いています。この経験は何物にも代え難い財産となりました。

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