[論文賞] 早瀬 英子/Baylor College of Medicine
- UJA Award
- 16 時間前
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Eiko Hayase, Ph.D., M.D.
[分野:サイエンスを遊ぼうの会]
論文リンク
論文タイトル
Bacteroides ovatus alleviates dysbiotic microbiota- induced graft-versus-host disease
掲載雑誌名
Cell Host Microbe
論文内容
健康なドナーから提供された造血幹細胞を患者さんに移植する同種造血幹細胞移植は血液がん等の病気における根治療法の一つであるが、ドナー由来の免疫細胞が患者さんの体を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)が起こりうる。特に、腸管はGVHDが起こりやすい臓器である。約100兆個もの細菌が形成する腸内細菌叢は同種造血幹細胞移植の予後に関わる重要な因子であり、腸内細菌叢の乱れは腸管GVHDの発症や生存率の低下に繋がる。ステロイドはGVHDに対する標準治療であり、この治療に反応しない腸管GVHD患者さんの予後は極めて不良である。しかし、これまで腸管GVHDの治療効果における腸内細菌叢の影響は十分に検討されていなかった。私たちは37名の腸管GVHD患者さんを検討し、治療への反応性の違いが移植中のカルバペネム系抗菌薬の治療歴、および腸管GVHD発症時の腸内細菌叢の乱れと関連していること、腸管内にBacteroides ovatusという腸内細菌が多い患者さんでは治療反応性が良いことを見出した。その理由を調べるため、カルバペネム系抗菌薬で腸内細菌叢を乱したマウスGVHDモデルを用いてBacteroides ovatus投与による腸管GVHDへの影響を検討し、Bacteroides ovatus が食物中の多糖類を単糖類に代謝する能力を介して腸管バリア機能を悪化させる粘液分解菌の粘液分解能力を抑制し、その結果として腸管GVHDの重症度を軽減し、生存率を改善することを明らかにした。つまり、腸管GVHD患者さんの腸内環境を改善することで、移植後の予後を改善できる可能性を見出した。
受賞者のコメント
非常に光栄に思うとともに、数年かけて取り組んできた研究を評価していただき、努力が報われた思いで大変嬉しく思います。
審査員コメント
二宮 一茂 先生
日本、アメリカと長年GVHDのトップ研究室に所属され、GVHDとmicrobacteria研究のトップ研究者の待望の続報。aLGI-GVHDは致死率も高く、移植が必須な治療などにおいて重要な疾患の一つです。特に、ステロイドが無効なGVHDでは、腸内細菌との関連が報告されておりました。2022年のCellではBacteroidesをターゲットにしたGVHDの治療法を証明され、今回は新たに腸内細菌を抗菌薬で処理した疾患モデルマウスにBacteroidesの移植が有効であるかの検討です。collaboratorの旦那様の得意とされるバイオインフォマティクスもふんだんに使われての玉稿、楽しく読ませていただきました。ステロイドが無効なGVHDなどより臨床に近いレベルでの臨床応用に向けた研究が期待されます。当該分野のワールドワイドリーダーのこれからの活躍にも目が離せません!
髙濵 充寛 先生
本研究は、造血幹細胞移植後の重篤な合併症であるGVHDに対し、腸内細菌Bacteroides ovatusが食事由来の多糖類を分解することで、ムチン分解を抑制するという新たな保護メカニズムを明らかにしました。これにより、従来の免疫抑制剤とは異なる「細菌による代謝制御」に基づく新たな治療戦略の可能性が示されました。今後は、本知見を基盤としたプロバイオティクスや精密な食事療法の開発を通じて、難治性GVHDの予後改善のみならず、他の腸管脆弱性を伴う疾患への応用が進展することが期待されます。
小島 秀信 先生
"現在トピックである腸内細菌叢と腸管GVHDとの関連を示した大変興味深い研究です。腸内細菌が免疫細胞の機能に重要な役割を果たすことは近年明らかになりつつありますが、ヒトの複雑な腸内細菌叢において、個々の細菌がどのような機序で病態に関与しているのかについては不明な点が多いのが現状です。
本研究では、実際の患者において抗生剤投与による腸内細菌叢の変化がGVHDの治療抵抗性に関与することを示し、さらに B. ovatus の有用性が動物モデルにおいても検証されています。本研究で得られた知見が、今後実臨床に応用され、新たな治療戦略につながることが期待されます。"
今田 慎也 先生
非常に文章も読みやすくわかりやすい論文でした。Unmet evidenceが明確に冒頭に示されており、マウスモデルの結果も非常に明瞭でした。Bacteroides Ovatusを介したmonosaccharidesがaLGI-GVHDの予防に繋がる可能性が示されており、ぜひ臨床応用をしていただきたいと思います。一方でmonosaccharidesがimmune cellのIL-22の産生に影響するのであれば、monosaccharidesを多く含む食事によるアプローチの可能性も同様の結果が期待できるのではないかと思いました。
1)研究者を目指したきっかけ
血液内科医として、一度は基礎研究に携わることが重要とされる環境で働いていたため、大学院に進学し研究に取り組むことは私にとって自然な流れでした。当初は強い興味から始めたわけではありませんでしたが、研究を通じて、臨床では解決が難しい患者さんの課題に対し、その解決の糸口を見いだせる可能性に魅力を感じるようになりました。現在では、医師としても研究者としても、研究に大きなやりがいを感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
大学院在学中に、造血幹細胞移植と腸内細菌叢に関する研究に携わったことが、この分野に進むきっかけとなりました。当時はまだ研究者が多くない領域であり、この分野を発展させることに意義を感じ、研究を深めたいと考えるようになりました。腸内細菌叢については、シークエンス技術の進展によりその構成は明らかになりつつありますが、個々の菌やコミュニティの機能については未解明な点が多く残されています。これらを解明していく過程は、新たな知見や発見につながる点に大きな魅力を感じています。
3)この研究の将来性
腸内細菌叢における個々の菌やコミュニティの機能を解明することで、これまで原因が十分に理解されていなかった疾患の重症度や治療効果に影響する因子を同定できる可能性があります。私の研究は造血幹細胞移植に焦点を当てていますが、これらの知見は他の疾患や治療にも応用可能であり、腸内環境を標的とした疾患リスクの評価や治療効果の予測、さらには新たな治療法の開発につながることが期待されます。



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