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[論文賞] 木村 公俊/京都大学

Kimitoshi Kimura, Ph.D., M.D.

[分野:生物学・分子生物学・発生・遺伝学]


論文リンク


論文タイトル

Immune checkpoint TIM-3 regulates microglia and Alzheimer’s disease


掲載雑誌名

Nature


論文内容

アルツハイマー病(AD)において、脳内に蓄積するアミロイドβ(Aβ)が中核的な病原性物質の一つですが、いまだに著効する治療法がありません。その病態には、脳内の免疫細胞であるミクログリアが深く関与しています。

本研究では、ミクログリアに発現する免疫チェックポイント分子Tim-3が、ADの病態進行を左右する重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Tim-3の欠失によってミクログリアの貪食能が亢進する一方で、炎症能の過剰な活性化が抑制され、結果として病原性物質であるAβ沈着の減少や認知機能障害の改善が確認されました。

詳細な解析により、Tim-3がSmad2のリン酸化を促進し、TGF-βシグナル経路をサポートしていることを見出しました。逆に、Tim-3発現にはTGF-βシグナル経路が必須であることを見出しました。TGF-βはミクログリアの恒常性に寄与する因子として知られていますが、上記より、Tim-3とTGF-βの両シグナル経路がfeed-forward loopを形成して、ミクログリアの機能を調節していると考えられました。

本成果は、これまで主にT細胞で研究されてきたTim-3のミクログリアにおける役割を解明し、神経変性疾患であるADに免疫チェックポイント機構が深く関与することを明らかにしたものです。ミクログリアのTim-3を標的とした新たな治療戦略につながると考えられます。


受賞者のコメント

これまで積み重ねてきた研究をご評価いただき、とても嬉しく思います。


審査員コメント


溜 雅人先生

本研究は、免疫チェックポイント分子TIM-3がミクログリアにおいてTGFβ–SMAD2シグナルを増強し、細胞恒常性と疾患関連表現型を制御するという、これまで知られていなかった分子機構を明確に示している点で高い新規性を有する。特に、TIM-3をT細胞制御分子としてではなく、中枢神経系ミクログリアのシグナル統合因子として再定義した点は概念的に重要である。さらに、ミクログリア特異的TIM-3欠失がアルツハイマー病モデルにおいて病理および認知機能を改善することを示した点は、基礎的意義にとどまらず、治療応用への明確な示唆を与える。本研究は神経免疫学およびアルツハイマー病研究分野において大きな価値を持つ。


神尾 敬子先生

本研究は、これまで主に腫瘍免疫分野で理解されてきた免疫チェックポイント分子を神経変性疾患に応用した点、ならびに遺伝学的手法とトランスレーショナル研究を統合して独創的なメカニズムを解明した点を高く評価しました。さらに、TIM-3 を神経免疫調節の新たな治療標的とする可能性を示しており、今後の神経変性疾患研究および治療戦略の発展に大きく寄与する成果と考えられます。


畑 匡侑先生

本研究は、Tim3という免疫チェックポイント概念を脳内常在免疫細胞の恒常性制御という分野横断的拡張を達成しており、かつ、AD病態理解と治療戦略に対する新たな貢献を達成しており、研究分野への貢献も極めて高い。


三木 春香先生

遅発性アルツハイマー病(AD)のリスクアレルであるTIM-3に着目し、ミクログリア特異的欠損マウスを用いてその詳細な分子制御機構と治療的意義を明解に示した貴重な研究です。特に、ミクログリアの免疫チェックポイント阻害が、アミロイドβの貪食能亢進と抗炎症形質へのリプログラミングを誘導することを実証し、ミクログリアを標的とした免疫チェックポイント療法という革新的な新規AD治療戦略を提示した点は、インパクトの大きい素晴らしい成果であると考えます。


1)研究者を目指したきっかけ

脳神経内科医として診療にあたる中で感じた問題について、研究を通して少しでも解決できればと思ったから。


2)現在の専門分野に進んだ理由

中枢神経(脳・脊髄)の変性病態は難治性であり、有効な治療法に乏しいですが、ミクログリアを標的としたアプローチによって画期的な治療に結びつく可能性があり、研究分野として魅力を感じています。


3)この研究の将来性

アルツハイマー型認知症・パーキンソン病といった神経変性疾患や、多発性硬化症などの中枢神経の自己免疫疾患において、神経変性病態が共通して認められます。こうした疾患は治療が難しいために、患者さんの身体的な負担ならびに社会的な負担が大きくなります。ミクログリアを標的とした画期的な治療を開発できれば、社会的な面を含めてその波及効果は大きいと感じています。


留学中のサポートやコミュニティについて

全く異なる分野の日本人研究者が交流する場(日本人研究者交流会)があり、とても楽しかったです。


留学や研究生活にまつわるエピソード

世界的に有名なトップ研究者が身近にいる環境で研究を行うことができて、今後の自身の研究の方向性を考える上でもとても有意義な経験になりました。また、研究面・生活面いずれにおいても異文化を体験することができ、視野や考え方が広くなったと思います。

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