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[論文賞] 水谷 信介/京都府立医科大学 血液内科

Shinsuke Mizutani, Ph.D., M.D.


[分野:オーストラリア・ニュージーランド]


論文リンク


論文タイトル

Genome-wide in vivo CRISPR screens identify GATOR1 complex as a tumor suppressor in Myc-driven lymphoma


掲載雑誌名

Nature Communications


論文内容

この研究は、がん遺伝子 MYC によって引き起こされる高悪性度のリンパ腫の発症を抑える新しいがん抑制遺伝子を探索したものです。MYCは多くのがんで異常に活性化している一方、直接抑える治療法はまだ確立されていません。そこで我々は、マウスの造血幹細胞にゲノム全体のCRISPR遺伝子ノックアウトライブラリを導入し、MYC過剰発現悪性リンパ腫発症モデルマウスに移植して、どの遺伝子の欠損が腫瘍化を促進するかを網羅的に解析しました。その結果、GATOR1複合体(NPRL3・DEPDC5・NPRL2)を構成するいずれかの遺伝子を失うと、MYCによるリンパ腫の発症が著しく早まることが判明しました。GATOR1は細胞の栄養状態を感知してmTORC1経路を抑制する分子群であり、その欠損によりmTORC1が常に活性化し、がん細胞の増殖が促されます。興味深いことに、これらの変異をもつ腫瘍はmTOR阻害薬に極めて高感受性を示しました。さらに、人のB細胞リンパ腫でもGATOR1発現の低い患者は予後が悪く、p53変異との共存がほとんどないことも確認されました。この成果は、GATOR1複合体がMYC依存性リンパ腫の新しい腫瘍抑制因子であることを示し、GATOR1欠損がんに対してmTOR阻害療法が有効である可能性を提示しています。


受賞者のコメント

今回このような素晴らしい賞をいただけましたことを大変光栄に思います。帰国後からアクセプトに至るまで長い道のりでしたが、WEHIのメンバーをはじめ多くの共同研究者に支えられて形にすることができました。あらためて感謝と御礼を申し上げます。


審査員コメント


渡邉 潤先生

Myc誘導性のリンパ腫に対してin vivoのクリスパースクリーニングを行い、Myc誘発性リンパ腫の強力な腫瘍抑制遺伝子としてmTORC1シグナルを抑制するGATOR1 complexが脆弱性を持つことを新規に示した研究となります。GATOR1 complex欠損腫瘍ではmTOR阻害剤が効果を強力に示しており、他のMyC誘導性の癌種にも応用できる可能性があり、今後の更なる発展が楽しみです。


工藤 麗先生

初めのin vivoゲノムワイドCRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングの設計がよく練られており、新たにGATOR1複合体の構成因子の欠損によりMYC高発現のリンパ腫の発生を促進することを示しています。特にこれらの欠損腫瘍が既存のmTOR阻害薬に感受性があることを示した実験結果は顕著であり、今後の治療に大いに役立つと感じました。


平田 英周先生

Eµ-Myc;Cas9マウスの造血幹細胞・前駆細胞を用いたin vivo全ゲノムCRISPRスクリーニングにより、MYC駆動型リンパ腫を抑制する新規因子としてmTORC1負の制御複合体であるGATOR1(NPRL3・DEPDC5・NPRL2)を同定した研究です。GATOR1の欠損がリンパ腫発症を促進する一方、これらがmTORC1活性に依存するという治療脆弱性を明らかにしています。今後、GATOR1異常に基づく患者層別化とmTOR阻害療法の臨床実装が期待されます。


磯崎 英子先生

CRISPR in vivo screeningを用いてリンパ腫の新たなtumor suppressor を同定した重要な報告です。この発見によって、リンパ腫の個別化医療が更に発展することを期待しています。


小林 祥久先生

マウスモデルのCRISPRノックアウトスクリーニングによって、GATOR1複合体の全構成因子が独立してMYCによるリンパ腫の発がんに関与しているという非常にきれいで説得力のある発見をされました。さらに、古くから活発に研究されてきたMYCは直接の治療標的になりにくいものの、このタイプではmTOR経路が活性化しmTOR阻害剤で治療可能であることを細胞実験とマウス実験で示された素晴らしい論文です。


1)研究者を目指したきっかけ

臨床医として目の前の患者さんの診療にあたる中で、治療が非常に困難なケースに遭遇することが多くありました。疾患形成のメカニズムを追求することで、画期的な治療が生まれる一助になるような研究に携わることができればと考え、研究に興味を持ちました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

診断から治療まで一貫して行うことができ、基礎研究と臨床が密接にリンクしているのが血液内科分野の魅力です。


3)この研究の将来性

本研究により難治性造血器腫瘍における新たな治療ターゲット候補が見出されました。この研究手法を他疾患、他分野にも応用することで、患者さんの新たな治療薬の開発に役立てればと思います。


留学や研究生活にまつわるエピソード

知り合いもなく、言葉も満足に通じない異国の地で家探しから始まり、思う存分研究に明け暮れ、日本とは異なる文化を家族と一緒に経験できたのは本当に一生の財産となりました。人生は一度きりなので、留学に少しでも興味があるなら思い切って飛び込んでみましょう!

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