top of page

[論文賞] 田中 淳/Beth Israel Deaconess Medical Center/Harvard Medical School

Atsushi Tanaka, Ph.D., M.D.


[分野:トランスレーショナル研究・臨床医学・公衆衛生]


論文リンク


論文タイトル

Proteogenomic characterization of primary colorectal cancer and metastatic progression identifies proteome-based subtypes and signatures


掲載雑誌名

Cell Reports


論文内容

大腸がんは世界で患者数が多く、がんそのものよりも「肝臓などへの転移」が予後を左右します。しかし、原発巣と転移巣が分子レベルでどう違うのかは十分わかっていません。本研究では、大腸の原発巣154例と肝転移142例、さらに正常大腸・肝臓を対象に、DNA・RNAとたんぱく質を網羅的に調べるプロテオゲノミクス解析を行いました。その結果、腫瘍は原発巣3種・転移巣3種の計6つの「たんぱく質サブタイプ」に分類され、それぞれが三つの性質の組み合わせで特徴づけられることが分かりました。第一は低酸素環境に強く適応し、周囲へ浸潤しやすくエネルギー産生のやり方を変えて生き延びるタイプ、第二は幹細胞に似た性質(がん幹細胞性)とテロメア維持機構を獲得しているタイプ、第三は抗原提示分子を減らし免疫細胞から見つかりにくくなるタイプです。いずれも転移巣でより顕著であり、原発巣と同じ遺伝子変異を持っていても、たんぱく質の振る舞いが大きく変わりうることが示されました。さらに、これらの性質に関わるたんぱく質群やシグナル経路を特定し、既存薬で狙えそうな分子や新たな分子標的薬・免疫療法の候補も提示しました。本研究は、原発巣だけでなく転移巣そのものを解析することの重要性を示し、大腸がんの個別化医療に向けた基盤データを提供します。


受賞者のコメント

このたびは、このような素晴らしい賞を賜り、誠にありがとうございます。

本研究は、共に研究を進めてくださった共同研究者の皆様、そして日頃より研究を支えてくださった多くの方々のお力添えによって成し遂げられたものであり、心より感謝申し上げます。

また、ご多忙の中、本賞の企画・運営ならびに審査にご尽力くださいました皆様にも、深く御礼申し上げます。

この受賞を励みに、今後も研究に一層精進してまいります。


審査員コメント


村上 重和先生

本論文は、大腸がんの原発巣と肝転移巣を含む大規模なコーホートを用いて、これまで主軸となっていたゲノム・トランスクリプトームに加え、プロテオームを統合した解析により、大腸がんの転移進展にともなうサブタイプの可塑性・動的変容を多面的に捉えた研究です。このようなマルチオーム解析を統合した報告はこれまで少なく、既存の知見を補完し、臨床応用研究に資することが期待されます。


氏家 直人先生

大腸癌原発巣および肝転移巣を対象とした大規模なプロテオゲノミクス解析により、原発巣と転移巣それぞれに特徴的なプロテオームサブタイプが同定されています。マススペクトロメトリーを用いた包括的解析により、低酸素応答、幹細胞様特性、免疫関連シグネチャーなど、腫瘍の進展段階や部位に応じた分子特性が整理されています。さらに、転移巣では代謝や免疫応答に関わるタンパク質発現の変化が示されており、大腸癌の転移過程に伴う分子変化を理解する上で有用な知見を提供しています。


渡邉 潤先生

転移性大腸癌に対してマルチオミクス解析(プロテオミクス、ゲノミクス、トランスクリプトミクス)を135例の初発、123例の転移症例に行っており、最大規模クラスの「原発–肝転移ペア」の分子メカニズム解明を行なった壮大な研究です。結果では転移ではゲノムの変化はあまり変わらないにも関わらず、プロテオームの変化を認め、低酸素、幹細胞性、免疫抑制が病態であることを実証しており、今後の治療戦略としては現在進められている遺伝子変異ベースでなく、プロテオームでの分子標的治療が進む可能性があり、非常にインパクトがある研究と考えます。


武藤 朋也先生

原発大腸がんと肝転移を多数例で解析し、タンパク質レベルの特徴から再現性のある亜型分類を提示した点が非常に優れています。とくに転移巣でみられる低酸素への適応や免疫回避といった「転移で重要になる性質」を整理して示したことで、転移の理解と今後の層別化治療の設計に役立つ重要な基盤を提供しています


工藤 麗先生

大規模な大腸がん原発巣と肝転移巣に対してゲノム解析とプロテオミクスを統合的に解析し、原発と転移それぞれに3つのプロテオームサブタイプが存在すること、さらに原発—転移ペア解析から、進行の過程でプロテオームサブタイプが変化し得る可塑性を示した論文です。この可塑性を踏まえると、今後は転移巣の評価も含めた層別化が重要になると感じました。


1)研究者を目指したきっかけ

私は、親が研究者だったため、子どものころから研究が身近にありました。そのため、自分も将来は自然に研究の道に進むのだろうと思っていました。実際に研究に触れる中で、未知のことを自分で考えて明らかにしていく面白さを感じ、研究を仕事にしたいと思うようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

がんは、同じ組織型であっても、患者さんごとに治療への反応や経過が大きく異なります。その違いを明らかにし、患者さんに合った治療につなげることは重要な課題です。私は、遺伝子とタンパク質の情報を統合して調べるプロテオゲノム解析を通じて、治療選択や予後予測に役立つ分子サブタイプの解明に取り組んでいます。がんの複雑さを深く理解し、それを実際の医療に役立てられる点に大きな魅力を感じています。


3)この研究の将来性

この研究は、がんの違いをより正確に見分け、患者さん一人ひとりに合った治療を実現することに役立つ可能性があります。がんを分子レベルで詳しく調べることで、治療が効きやすい患者さんとそうでない患者さんの違いや、再発しやすさの違いを理解できるようになります。その結果、将来は診断の精度向上、予後予測の改善、新しい治療法の開発につながることが期待されます。


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学や海外での研究生活は、とても大きな学びと成長の機会になる一方で、研究以外の面でもさまざまな困難があります。特に経済面は想像以上に重要で、私自身もその大切さを強く感じました。実際に、資金が十分に続かず、研究を完遂する前に帰国せざるを得なかった方々をこれまで多く見てきました。留学を成功させるためには、研究への意欲や努力だけでなく、安心して研究を続けられるだけの十分な資金計画を立てておくことがとても大切だと思います。研究をしっかりやり遂げるためにも、事前に現実的な準備をしておくことを強くおすすめします。

コメント


bottom of page