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[論文賞] 石川 智愛/マサチューセッツ工科大学

Tomoe Ishikawa, Ph.D.

[分野:免疫・アレルギー分野]


論文リンク


論文タイトル

Brain-wide mapping of immune receptors uncovers a neuromodulatory role of IL-17E and the receptor IL-17RB


掲載雑誌名

Cell


論文内容

インターロイキン-17A(IL-17A)をはじめとしたIL-17ファミリーは免疫システムのメッセンジャーの一種として知られています。私の所属するChoi研究室ではIL-17Aが自閉症モデルマウスの社会性行動を改善させうることを発見したものの、その詳細な神経回路基盤に関しては不明でした。また、IL-17を含むサイトカインの受容体は脳内の発現量が限られており、その発現分布さえも明らかになっていませんでした。そこで私は、各IL-17受容体(IL-17R)サブユニットのプロモーター制御下にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウスを作成し、Cre依存的にEGFPを発現させるウイルスを投与することで、各IL-17Rの脳内発現様式の網羅的な解析を行いました。その結果、IL-17RAとIL-17RBが脳大脳皮質領域に多く発現すること、この二種類の受容体がIL-17Aによる自閉症モデルマウスの社会性行動の改善に必要であることを突き止めました。また、IL-17Aは脳内のIL-17Eの発現量を上昇させることで、神経の過興奮を抑制し、その結果として社会性行動の低下を改善することを示しました。本研究はサイトカインが免疫系と神経系を結びつけ、最終的に自閉症モデルマウスの社会性行動を改善させるメカニズムを明らかにした点で意義深いものです。さらに、本研究ではIL-17の経鼻投与が社会性行動を調節しうることを示しており、サイトカインの経鼻投与による社会性行動改善という新たな治療システムの可能性を示唆した点でも重要な研究といえます。


受賞者のコメント

この度はUJA論文賞に選んでいただき大変光栄です。審査員をはじめ、企画に携わってくださった関係者の皆様に深く感謝申し上げます。留学にあたり研究分野を大きく変えたため、大変なこともたくさんありましたが、興味深い現象を発見することができました。また、発表した論文をこのような形で評価していただき、とても嬉しく思います。


審査員コメント


溜 雅人 先生

本研究は、IL-17受容体サブユニットすべてについて脳全域の発現を遺伝学的にマッピングし、サイトカイン受容体の空間的・細胞型特異性というこれまで十分に検討されてこなかった視点を提示している点で、極めて新規性が高い。特に、社会行動制御において従来想定されていたIL-17RCではなく、IL-17RBが必須であることを明らかにした点は、IL-17シグナル伝達の理解を大きく更新する重要な発見である。さらに、IL-17Eが皮質ニューロンにより産生され、IL-17RA/IL-17RB発現ニューロンに作用する神経修飾因子として機能することを示した点は、サイトカインを免疫分子にとどまらない直接的な行動制御因子として再定義するものである。本研究は、社会行動を制御する新規の神経免疫回路を同定するとともに、受容体発現に基づいてサイトカイン機能を解明し、神経免疫学および行動神経科学における新規の知見と研究領域の発展に貢献する高い価値を有する。


佐藤 有紀 先生

IL-17Eは腸管や肺などのバリア組織での炎症を司るサイトカインとして知られていましたが、本論文では脳内ニューロンがIL-17Eを産生し、別のニューロンの活動を制御することを見出しています。また脳内のIL-17RA/IL-17RB受容体を介してIL-17Eを作用させることで社会的行動の障害を改善できることも示しており、臨床的にも重要な成果であると感じました。これらの知見が今後の自閉症スペクトラム障害などの治療の発展に寄与することを期待しています。


畑 匡侑 先生

本研究は、免疫サイトカイン受容体である IL-17受容体サブユニット の脳内発現を全脳スケールで網羅的にマッピングし、IL-17E–IL-17RB 経路が大脳皮質において神経調節因子として機能し、社会行動を制御することを明らかにした研究である。単なる神経免疫相互作用の記述にとどまらず、免疫分子を神経調節物質として再定義する概念的飛躍を含み、分野横断的波及効果も極めて大きい。


小田 紘嗣 先生

これまでの研究により、IL-17サイトカインファミリーが免疫応答のみならず社会行動の変容にも役割を果たすことがわかっていた。本論文は、マウスの脳におけるIL-17受容体の各サブユニットの空間的分布を、遺伝学的アプローチを用いて網羅的に解析している。過去にはリガンドであるIL-17AはIL-17RA, IL-17RCヘテロ二量体に結合すると考えられてきたが、本研究はマウスの脳においてはIL-17RCではなくIL-17RBがIL-17RAと共役し、社会行動の変容に寄与する可能性を示した。これらのサイトカイン受容体は神経細胞においては高発現してはいないため、本論文のような複数のCreマウスを用いた網羅的遺伝学的アプローチは非常に有効であると考えられる。今後、今回新規に同定されたIL-17リガンド–受容体の組み合わせに関して、さらに深く分子機構を解明することが期待される。


1)研究者を目指したきっかけ

神経細胞の活動をイメージング技術で観察すると、とても美しく、魅了されたのが研究に興味を持ったきっかけです。研究によって新しい概念を生み出せることにやりがいを感じています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

現在は神経系と免疫系という異なるシステムがどのように相互作用して体の生理機能を制御するのかに興味を持って研究を進めています。脳と免疫はそれぞれ独立すると考えられていましたが、最近になりそれぞれが相互作用していることが明らかになりつつあります。今回の論文では免疫系の制御に関わると考えられていた分子が、実は脳にも作用し、社会性行動を変化させうることを発見しましたが、他の行動への影響など明らかになっていない重要な問いがたくさんあります。


3)この研究の将来性

この研究は自閉症モデルマウスにおいて免疫分子が社会性行動を改善することを示したものであり、将来的には免疫分子による自閉スペクトラム症の治療も見据えた研究です。実際に医療に還元されるまでにはまだまだ長い道のりが必要ですが、今後の展開を楽しみにしています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

新しい環境・新しい分野での研究を始めるのにはハードルもたくさんありますが、実際に飛び込んでみると、とても楽しく充実した時間を過ごすことができました。ボストンは学術的な街で、研究をサポートしようという雰囲気が流れていることが印象的でした。研究以外では、NBAやアイスホッケーの試合を見に行った時はアメリカのスポーツに対する熱気を感じられて面白かったです。

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