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[論文賞] 金子 隆/University of California, Santa Barbara



Takashi Kaneko, M.S.


[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]


論文リンク


論文タイトル

Radical-Free Digital Light Processing 3D Printing of Hydrogels Using a Photo-Caged Cyclopentadiene Diels–Alder Strategy


掲載雑誌名

Advanced Functional Materials


論文内容

本研究では、水を多量に含むソフトマテリアルであるヒドロゲルを対象に、プロジェクター光を用いる光投影型3Dプリンティング法(Digital Light Processing: DLP)に適した新規光造形法を開発した。従来の光投影型3Dプリンティングは光開始剤から生じるラジカル重合に依存しており、生成するラジカルは生体毒性を持つだけでなく、タンパク質や核酸などの繊細な分子とも反応しうるため、医療材料への応用や高機能分子との共存に大きな制約がある。本研究では、光照射によりシクロペンタジエン(Cp)を放出する前駆体と多官能マレイミドを水中で組み合わせ、穏和で選択的なDiels–Alder付加反応のみで数十秒以内にゲル化する水系フォトレジンを設計し、ラジカルフリーのヒドロゲル光3Dプリントを初めて実現した。さらに、印刷後のヒドロゲルネットワーク中に残存するCp前駆体部位を再光照射で選択的に活性化し、マレイミドを含む色素や機能性分子をヒドロゲルの任意位置に固定化できることを示した。ヒドロゲルの高精度3Dプリンティングと印刷後の空間的な後置修飾は、人工軟組織、ドラッグデリバリー担体、再生医療用細胞足場など次世代医療材料の設計に不可欠な基盤技術であり、本研究はそのための汎用的なプラットフォームを提供する。


受賞者のコメント

このたびはこのような賞をいただき、大変光栄に思います。日頃からご指導くださっている先生方、共同研究者の皆様、そして研究生活を支えてくれている周りの方々に心より感謝しています。今回評価していただいた研究は、材料化学とものづくりをつなぐ可能性を持つものだと考えています。今回の受賞を励みに、今後も基礎研究の面白さと社会につながる価値の両方を意識しながら、より良い研究を積み重ねていきたいです。


審査員コメント


竹井聡先生

細胞や材料を傷つけない新しい3Dプリント法を開発した点は,非常に素晴らしい成果だと思います.短時間で精密な形が作れるだけでなく,後から自由に機能を足せる点も大きな魅力です.この技術が再生医療の未来を切り拓き,医療現場で広く役立つことを期待しています.本研究がさらに多くの分野で役立つことを,心から応援しています.


渡邊達也先生

従来の3Dバイオプリンティングにおける重要な課題であったradical reactionによる細胞障害に対し、radical freeを可能にした点で極めて革新的である。

Diels–Alder反応を利用した新しいresinは、生体適合性、化学的精度やpost-functionalizationの可能性のいずれにも優れており、今後のbiofabricationやtissue engineeringの基盤技術になる可能性を秘めた研究である。

材料科学、化学、再生医療といった広い範囲の分野に関わり、学際的価値も非常に高い。今後、この技術がcell-laden bioprintingや臨床応用へと発展していくことが期待される。


庄司 観先生

本論文では、ラジカルフリーな光硬化性レジンの開発について報告しており、高い生体適合性を有することから細胞の足場材への応用展開が期待できる。論文中でも述べられている通り、硬化に必要な紫外線強度が高いことが課題とされているが、分野にとらわれず他のアプリケーションも提示することができれば、分野を超えた研究の面白みが伝わるのではないかと感じました。


佐藤 隆昭先生

本研究は、3Dプリンティングを用いたバイオ研究における大きな課題だった「造形プロセス中の細胞への化学的ダメージ」を、独創的な設計によって解決した非常に意欲的な論文です。

まず科学的な意義として、光造形で主流だったラジカル重合を排除した「ラジカルフリー」なプロセスを実現した点が画期的です。光を当てるまで反応しないように閉じ込めた分子が、特定の光照射によって解錠され、隣の分子と結びつけることで反応を制御する、という高度なアプローチは材料工学の観点からも非常に高く評価できます。これにより、デリケートな生体物質に致命的なダメージを与えることなく、精密な3D構造体の中に配置できるようになったことは、人工臓器の開発や高度な創薬モデルの構築においてインパクトをもたらすでしょう。

またインクの組成を変えると、生体組織に近い柔軟性から一定の剛性まで力学的特性を変更できる点は、実用面での武器となると予想できます。私自身の関心事であるトライボロジー(摩擦・潤滑)の視点からも、本研究には大きな可能性を感じます。ハイドロゲルのような柔軟材料は、その網目構造や表面の化学状態によって摩擦特性が劇的に変化します。本研究の「光で局所的に化学結合を制御する技術」を応用すれば、部位ごとに摩擦係数や潤滑性能が異なる「高機能な生体模倣界面」をデザインすることも可能になるかもしれないと思いました。これは、次世代の低摩擦医療デバイスや人工関節の潤滑層開発にも繋がる、非常に夢のある展開です。

現時点では材料の基礎特性と造形性能の実証が中心ですが、今後はこの技術を用いて「生きた細胞」がどのような新しい機能を発揮していくのか、その先の展開を非常に楽しみにしています。著者らの優れた化学的センスと工学的な実装力が、生命科学と材料工学の新たな融合領域を切り拓いていくことを確信しており、今後のさらなる飛躍を強く期待しております。


内田 昌樹先生

本論文は、ラジカルを用いない光反応を利用した新しいdigital light processing (DLP) 3Dプリンティング用ハイドロゲルレジンを開発し、反応機構の検証から造形と機能化までを高い完成度で実証している。特に、15N標識マレイミドを用いたNMR解析やTEMPO存在下での光レオロジー実験により、反応機構がラジカルではなくDiels–Alder反応であることを丁寧に検証している点は高く評価される。よりマイルドな光照射条件での材料設計が可能になれば、生体材料への応用が進むと思われるので、今後の研究の進展が大いに待たれる。


1)研究者を目指したきっかけ

もともと私は、目に見えない分子の違いが、材料の性質や機能を大きく変えることに惹かれていました。実験では、最初はうまくいかないことも多いのですが、自分で考え、試し、少しずつ答えに近づいていく過程に大きなやりがいを感じました。特に化学は、身の回りのものから最先端の医療材料まで幅広くつながっていて、「自分の手で新しいものを生み出せる学問」だと思っています。そうした魅力から、研究を仕事にしたいと考えるようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

現在は、光を使ってやわらかいゲル材料を三次元的につくる研究に取り組んでいます。私がこのテーマに魅力を感じているのは、化学反応の設計によって、材料のつくり方そのものを変えられる点です。特に、生体にやさしい条件でゲル材料を作製できれば、医療やバイオ分野への応用が広がる可能性があります。分子レベルの工夫が、最終的には形ある材料や機能につながっていくところに、この分野の面白さを感じています。


3)この研究の将来性

この研究が進むことで、細胞や生体分子にやさしい環境で、複雑な形を持つやわらかい材料を作れるようになる可能性があります。そうした材料は、再生医療、創薬の評価モデル、医療用デバイス、ソフトロボティクスなど、さまざまな分野で役立つことが期待されます。また、従来よりも穏やかな反応条件でものづくりができれば、より安全で扱いやすい材料設計にもつながります。基礎的な化学の研究ですが、将来的には人の健康や新しい製造技術に貢献できると考えています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学や研究生活では、思い通りにいかないことの方が多いかもしれません。私自身も、言葉の壁や文化の違いに戸惑ったり、実験がうまくいかなかったりした経験がたくさんあります。それでも、新しい環境に飛び込むことで、自分の考え方や視野が大きく広がりました。留学を目指している方には、完璧な準備ができてからではなくとも、興味があるならまず一歩踏み出してみてほしいと思います。研究も留学も、最初から自信がある人ばかりではありません。わからないことをそのままにせず、周りを頼りつつ挑戦を続けることで、少しずつ自分の道が見えてくると思います。

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